彼女の雰囲気がものを伝えたのか、先見の瞳の中の怒気が和らぐ。

「好きだと気づいたはすごく最近だけど、それまでからずっと好きだったでしょ…?」

疑いもなく、微笑まれてアズキにも気付かれていたことに頬を染める。
俯くナナセは伝う涙をそのままに、言葉を落とす。

「どちらも出来る道が、分からないもん…。」

─だから、彼の願いを取ったの。

そう弱々しく言うナナセを、アズキはぎゅ、と抱き締めて。

「ちょっと…アズキ…!」

ちゃんと彼女は恋をしていると知って、アズキはほっとした。

抱き締めた彼女を離し、怒っていた彼女は願うような瞳を間近に、口を開く。

「じゃあ、諦めないでよ!
私も一緒に考えるから…!」

ナナセの華奢な肩を掴んで揺さぶる。
銀がそれについて揺れて、アズキは強すぎたかと手を離す。

「…まだ、怖いの。
消せる気がしなくて、あたしは王様になりたいのに、この心はそれと反対だから、どうしたらいいか分からなくて……。」

「…ナナセ!」

まだ伝わっていないのかと悲しくなってアズキはまた口を開くが、銀髪の王女は涙目をこちらに向けて微笑むから、言葉を無くす。

「けれどまだ、諦めないでいるよ。」

「…ナナセ!」

また呼んだ名は、喜びの欠片。

「私も、手伝うから。
手伝うから、諦めないで。」

ぎゅ、と手を握り、もとから無かった距離を詰め寄る。
泣きそうな目で、ナナセは小さく頷く。

「まだだからと言ってどうとかすることはできないけど…。

いつか、本当に全部良くなった時に、あの人の隣に立ちたい…。」
ふわり、と笑うその笑顔がまだ儚くて。
その笑顔にアズキはこれから背中を押し続けていく決意をした。

「約束、だよ。」

─諦めたら、駄目だよ。

こつん、と茶髪を銀に合わせてそう言うと。

「うん。」

まだ弱いけれど芯のある、そんな声が先見の耳を叩いた。
そしていつものように笑ったアズキに、遠慮がちにナナセが尋ねた。

「…何で、そんなに力になってくれるの?」

そんな問いに、アズキは満面の笑みで答えた。

「そんなの、もちろんナナセの親友だからだよ。
ナナセが今諦めたって、後悔するはずだもん。」

先見の少女はそう言って笑うから、向けられた優しさにナナセは嬉しくなって。

「ありがとう、アズキ…。」

言葉が素直に出て、赤い目尻を隠さず微笑んだ。

「ううん、こっちこそ。
怒鳴って、叩いてごめんね。」

こちらこそ、と言ったナナセはくすりといつもみたく笑って。

「ありがとう、目が覚めたよ。

でもアズキが怒るのは、初めて見たな…。」

「私、案外短気よ?」

そんなことないよと首を振って、アズキに、言葉を送った。

「確かに、なにもしてないのに諦めるところだったよ。
まだどうすればいいかわからないけど、あたし、頑張るね。」

芯のある空色の瞳を向けてくる銀髪の少女に、アズキは胸を張って答えた。

「ナナセが困ったら、ナナセが我慢ばっかりしたら、私がいくらでも怒ってあげる。」

「よろしくね。」

きゅ、と手を握りあって、二人の初めての喧嘩は幕を下ろしたのであった。