「だから、諦めるの?」

思ったよりも自分の声が冷ややかで、彼女自身も動揺したが、真っ直ぐに射抜く瞳は外さない。
アズキは彼女の反応を待つ。

淡い色のスカートに目を落として、息を飲み込む。
先見の少女には白くいつも明るい銀が少し力なく見えて、強張る。

アズキを見上げた彼女は、涙を称えた瞳で頷いた。

その反応に、ぎり、と歯軋りするけれど、思いはアズキの言葉にはならなくて。

真っ直ぐアズキを見上げた少女に、右手を力一杯振り切って。

─パン。

頬を打つ乾いた音が部屋に響いた。

痛みよりも驚きが勝るナナセは、呆然と涙を溜めたアズキを見上げる。

平手打ちした本人は、顔を真っ赤にして涙を堪え、叩かれた側は驚きに涙が引っ込んだ。

涙でまだ微かに濡れた空色の瞳を睨んで、アズキは力一杯怒鳴った。

「私はナナセの強いところは、みんなを守る気持ちはすごく尊敬するけど!

けど、自分ばかり背負い込んじゃうところは、嫌い!
どうして行動する前から諦めるのよ!
なんでも全部ナナセが我慢したら良い訳じゃないんだからね…!」
言葉尻には涙が混じって上手く聞き取れなくなる。
涙を拭おうとするが、拭う手が追い付いていないアズキの頬を伝う涙に、ナナセもつられて本音をこぼす。

本当は堪えておこうと思ったナナセの心の奥が、涙のお陰で滲み出る。

「そんなの言われたって、あたしには出来ないよ…。

あたしは好きでも、駄目なものは駄目だもの…!」

涙の空気が伝染し、ナナセは前が揺らいでゆく。

感情に任せて怒鳴るアズキを目の前に、椅子に小さくなるナナセ。

「だからって諦めるなんておかしいよ…!

ナナセが好きだというのは、そんなに軽々しいものなの?」

その言葉にナナセは、ぎゅ、と唇を結んで足元の絨毯を見詰める。
─そういう訳じゃ、ないのに。