彼女が幸せに笑っている隣で、カップに口を付ける素振りをして、ナナセは小さな声を落とした。

「気付きたく、無かったな…。」
ぼそりと呟いた台詞は、隣のアズキに辛うじて伝わる程度の独白で。

内容は、予想とは正反対で。

声音が、ひどく脆くて、痛々しくて。

「─え…?」

アズキの声音に、目の前で銀髪が揺れて、空色の瞳が見開かれる。
聞かれていると思っていなかった自分の台詞に動揺し、顔を背ける。

がたん、と椅子の足を揺らして立ち上がった彼女は茶髪を揺らして、ナナセの正面にまわる。

「どういうこと、なの。」

今は引き結ばれた唇から落とされた台詞に、空色の瞳は泳ぐ。

「理由にしたら、駄目なんだろうけどね、」

しばらく口を開かなかったナナセは諦めたように微かに笑って、言葉を落とした。

──あたし、王女だもの。


その自嘲気味な言葉に、アズキは問う。

「王女と平民は駄目だっていうの?」

先見の少女にしては珍しい強い口調に、彼女はゆるゆると首を振る。

「王様になるのと、あたしの想いは、逆だもの。」

銀の彼女は、小さな自分にロウがつけた鎖には当たり前すぎて気付かない。

「ルグィンの立場は、本当は現国王の側なんだよ、知っていた?」

「…え?」

軍と国王の繋がりなんて、当たり前なのにアズキは考えてはいなかった。

「アズキ、考えたこと無かったでしょう?

あの人はちゃんと、そういうところまで考えて言ってないんだろうけど…。

立場の違いって、大きいんだよ?
あの人の立場はまだ、あたしとは反対なの。」

ナナセのティーカップがまた固く握られる。
言い聞かせるような声音に、まだ彼女自身納得していないのだろうとアズキは察する。

「じゃあ、あたしたちと同じ側に引き込んじゃえばいいじゃないの。」

「駄目だよ…!
あたしの一方的な想いのために、引き込むなんて許されない。」

そんな鈍さの塊のような台詞を真っ直ぐに自分を見つめて告げる彼女にアズキは苛々した。

─ナナセがルグィンを大事に想うみたいに、ルグィンもナナセを想っていて。

─両想いなんだよ、なんて言うのが許されたら、どれだけ楽なんだろう。

秘めた想いを明かされた第三者が、それを告げるのはルール違反だから。

「だから?」