七分丈の緩めのズボンをはいた足がパタパタと動くのをナナセが見つめていると。

「ナナセ!」

キラキラした顔で飛び付いてこられたら流石のナナセもよろめいて。
首に回された細い腕と、少し熱い運動後の体温を感じながらナナセも彼女の腰に手を添える。

アズキがちらりと右端を見上げると、なんとも言えない顔で自分を見ている少年がいて。
それに対抗するように、ナナセの肩に顎を置いて、アズキは自慢げに口元を上げて彼女の隣を見上げる。

黒猫は溜め息と共に目を逸らし、窓から見える作り物の青空を眺める。


視線の会話を知らないナナセは、なかなか喋らないアズキを不思議に思って、抱き締められた中で彼女の後ろ頭を見る。

「…?
アズキ、なにかあった?」

「え?
あ、なんにもないよ!」

「そう?」

不思議そうなナナセの問いかけにアズキが頷いて、ナナセに言いたかった話を思い出す。


「珍しいね、ナナセが私たちが訓練しているときにここに来るなんて。」

にこにこと笑いかけられて、銀の少女も柔らかく口許を綻ばせる。

「そうかな?」

人の練習を見るのはなんとなく気が引けて、いつも終わる頃を見計らってここに通うナナセ。

ここに来てルグィンやスズランと手合わせをすることもしばしば。
本気のスズランを知っているから、今日の訓練の終盤の彼女が本気にほんの少し近かったことにナナセは薄く気付いている。

困ったような、淡い笑みを浮かべてアズキに微笑む。

「強く、なったね。」

「そうかな?」

アズキが嬉しそうに笑う。

少し嬉しそうにナナセの首に回していた腕を緩めてアズキは笑う。
明るい茶色の髪が視界で揺れて、ナナセも穏やかな気持ちになって。

先見の彼女を眺めたのだが、たまたま目についたズボン。

─動き辛いとはかなくなったスカートの代わり。

ふ、と水面に浮かび出たように思い出したから、強くなった彼女に少し悲しくなって柄にもなく誉めた。

「あと、今日のズボン凄く可愛いね。」

あまり言わない台詞だけど、ナナセは笑顔で口にした。

「本当?ありがとう!

この間スズランがくれたの!
今の流行りなんだって!」

あまり嬉しそうに言われると、こちらまで嬉しくなる。

「そっか。良かったね。」

ふわり、笑顔を見せるとアズキは大きく頷いた。

「うん!」