空色の瞳にキスを。

そのあとは、一瞬だった。


ほんの一瞬静止した改造人間の彼女が高速で駆けて、トーヤの目の前に現れる。
その目で彼女の移動を捉えることができなかった彼は、急に現れた彼女に目を丸くする。

けれども驚く暇すら与えずに、魔術師でもある彼女が魔装銃を変形し、片手で刀のように振り下ろす。

ギィン、と鈍い音が反響する。
彼女にしかできないこの技を剣一本で受け止めた青年の手には、大きな衝撃がかかる。

それを押し返そうと必死になるトーヤの右腹にカチャン、と銃口を押し当てる。
その感触にさっとトーヤは青ざめる。

「貴方、私の片手空いているの忘れてないでしょうね。」

妖艶ににやり、唇を上げたスズランに、とトーヤは歯軋りをして。
力を抜いて床に座り込んだトーヤは悔しそうにそう叫ぶ。

「今日も負けた…!」

その声を耳には入れないで獅子の女は振り返り臨戦態勢のアズキを見据える。

一人一人片付けていくのはスズランの得意な戦法だ。

ぎゅ、と唇を引き締め強張った顔で片手に白い紙切れ達を握りしめる片赤目の少女。
対するは余裕のある笑みを浮かべて銃を元の形へ戻す獅子の女。

これだけ見ればスズランが勝ったも同然なのだが、彼女はなかなか筋が良くて見くびれない。

だん、とスズランが床を蹴ると、板が軋んだ音が聞こえた。

高速移動と魔装銃を使い、アズキを攻め立てていく。

ふたりの髪が速さについていけずに空中で遊ぶ。

獅子の速い動きにおされたアズキは後ずさりながら応戦する。


だけど流石は、先見の魔術師。

動きの速さは敵わないが、スピードを補う予知で的確にかわしていく。

しかし相手は獅子の改造人間で。

アズキが先を視てかわすにも限界がある。

だんだんとスズランの速射も防ぐことの出来ない速さになってきて、それでも精一杯茶髪の少女は逃げ回る。

お互い遠距離を得意とするふたりは、あまり近付かず、広いこの訓練場を大きく使う。

本当に傷つけられる弾丸や魔術を込めた紙を作ってはいない。
だけどそこに甘えはない。

降り注ぐ弾丸をかわし逃げながら攻撃の隙を狙うその顔は真剣そのもので。

隅で壁にもたれて二人の戦いぶりを見ていたナナセはどきりとする。

アズキの必死の防御のお陰か、スズランの銃の乱射が止む。

どうやら魔力が切れたようで、カシャン、とまたすぐに充填された力の塊が、アズキに狙いを定める。
放たれた魔法弾を左手で展開させた防御の魔術で食い止め、茶髪の少女は立ち向かう。