誰も来ない、屋敷の奥の隅の暗い部屋。
そろりと、音を立てずにそこへ滑り込む二人の少年少女。
少女のスカートがふわりと揺れたその後ろで扉が少年によって閉められ、鍵をかけられる。
そしてその部屋の絨毯をそっとずらして、切り取られまた嵌め直された床板にそっと手を伸ばす。
かこ、と軽妙な音をたてて外れた茶色い床板の下には、重たそうな煉瓦が見えた。
煉瓦の扉を開けて階段を降り、地下室へと足を踏み入れると、金属がぶつかり合う特有の音がする。
毎日ここへと通うファイとルグィンにとっては聞きなれた音。
その音を聞きながら、ルグィンがファイの後ろで大きな石戸を閉める。
少女が手の中に魔術の光を生み出と、柔らかい青白い光が煉瓦造りの廊下を淡く照らし出す。
その中でファイは自分にかけた魔術を解き、ナナセへ戻る。
彼女の見慣れた銀髪に、どちらからともなく顔を見合わせて微笑み、歩き出す。
二人とも積極的に言葉を生む性質ではないからなのか、黙り込んでしまう。
するとどうしても聞こえてくる音に気がいってしまう。
ナナセが少し耳を澄ませると、金属音の間に時々、女の声がする。
「―違う!もっと力を込めて!」
怒鳴りたてる厳しい声に、青白い廊下にくすりと微かな笑い声が漏れる。
長い廊下を歩き、その声の響く扉を少年が押すと、その木の扉は簡単に開いた。
豪華なこの屋敷にあるとは思えない、昔ながらの煉瓦造りの地下の廊下の先にある、秘密の部屋。
片手で開いたその扉の先には、三人の若者。
魔術で明るく照らされた訓練場で、三人が飛び回っていた。
「ほらもっと強く振り切りなさいよ!」
声を飛ばしながら栗色の髪の間から獅子の耳を覗かせた女は、魔装銃を両手に二人の相手をしている。
その顔のなんと強気で、余裕のあることか。
獅子の細い足が相手の男を蹴り飛ばし、男の体は壁まで飛んでいく。
だが、彼はよろりと立ち上がる。
「ちくしょ…!」
刃引きしたといえ、ちゃんと重みのある短剣を握って獅子の女に向かっていく、焦げ茶の髪の青年。
剣撃をスズランは難なくかわし、反撃を入れて今度は振り返りざまに背後の少女へ発砲する。
獅子の背後を狙い、死角へ回り込もうとしていた少女は攻撃を一時放棄する。
迫り来る弾丸に見切りをつけ、かわせなかったものは魔術盾で防御するがまだ視線はスズランから外さない。
紙切れを操りながら後ろで援護しつつ魔術を飛ばし、遠距離攻撃をするのは明るい色をした茶髪の少女。
アズキの赤い左目は明滅を繰り返し、彼女自身へ少し先の未来を教える。
この時間、ほんの2秒程。
「さあ、終わりよ!」
勝ち誇った、スズランの叫びがこの訓練場を揺るがせた。
そろりと、音を立てずにそこへ滑り込む二人の少年少女。
少女のスカートがふわりと揺れたその後ろで扉が少年によって閉められ、鍵をかけられる。
そしてその部屋の絨毯をそっとずらして、切り取られまた嵌め直された床板にそっと手を伸ばす。
かこ、と軽妙な音をたてて外れた茶色い床板の下には、重たそうな煉瓦が見えた。
煉瓦の扉を開けて階段を降り、地下室へと足を踏み入れると、金属がぶつかり合う特有の音がする。
毎日ここへと通うファイとルグィンにとっては聞きなれた音。
その音を聞きながら、ルグィンがファイの後ろで大きな石戸を閉める。
少女が手の中に魔術の光を生み出と、柔らかい青白い光が煉瓦造りの廊下を淡く照らし出す。
その中でファイは自分にかけた魔術を解き、ナナセへ戻る。
彼女の見慣れた銀髪に、どちらからともなく顔を見合わせて微笑み、歩き出す。
二人とも積極的に言葉を生む性質ではないからなのか、黙り込んでしまう。
するとどうしても聞こえてくる音に気がいってしまう。
ナナセが少し耳を澄ませると、金属音の間に時々、女の声がする。
「―違う!もっと力を込めて!」
怒鳴りたてる厳しい声に、青白い廊下にくすりと微かな笑い声が漏れる。
長い廊下を歩き、その声の響く扉を少年が押すと、その木の扉は簡単に開いた。
豪華なこの屋敷にあるとは思えない、昔ながらの煉瓦造りの地下の廊下の先にある、秘密の部屋。
片手で開いたその扉の先には、三人の若者。
魔術で明るく照らされた訓練場で、三人が飛び回っていた。
「ほらもっと強く振り切りなさいよ!」
声を飛ばしながら栗色の髪の間から獅子の耳を覗かせた女は、魔装銃を両手に二人の相手をしている。
その顔のなんと強気で、余裕のあることか。
獅子の細い足が相手の男を蹴り飛ばし、男の体は壁まで飛んでいく。
だが、彼はよろりと立ち上がる。
「ちくしょ…!」
刃引きしたといえ、ちゃんと重みのある短剣を握って獅子の女に向かっていく、焦げ茶の髪の青年。
剣撃をスズランは難なくかわし、反撃を入れて今度は振り返りざまに背後の少女へ発砲する。
獅子の背後を狙い、死角へ回り込もうとしていた少女は攻撃を一時放棄する。
迫り来る弾丸に見切りをつけ、かわせなかったものは魔術盾で防御するがまだ視線はスズランから外さない。
紙切れを操りながら後ろで援護しつつ魔術を飛ばし、遠距離攻撃をするのは明るい色をした茶髪の少女。
アズキの赤い左目は明滅を繰り返し、彼女自身へ少し先の未来を教える。
この時間、ほんの2秒程。
「さあ、終わりよ!」
勝ち誇った、スズランの叫びがこの訓練場を揺るがせた。

