空色の瞳にキスを。

暫くの睨み合いを放棄したのは男の方だった。

「仕事中のお前は隙がないから嫌になる。」


濃紺よりももっと黒に近い服を着た剣士のような出で立ちの彼は、疲れたように溜め息をついた。


温くなった珈琲に手を付けて、静かにそれを啜りながら彼は思案に耽るような表情をする。

それを獅子の女が見ていたことに気付いたのか、彼は荒っぽく背中まで達した金髪を払いのけて、睨むようにスズランを見た。


金に時々白が混じっていて、それもまた威厳へと繋がる。

「息子たちがこちらに邪魔をしているみたいだと聞いたが。」

リクの父に臆さず、獅子の耳ををぴんと立てて、まっすぐに見詰め、強い瞳のままに唇に笑みを乗せる。

「ええ、いらっしゃいますよ。

皆、無事ですわ。」


そう微笑むと、リクの父は安心したように眼力が緩む。

「流石、スズ嬢。
これからも頼んだぞ。

それから、このことは内密に。」

「分かりました。

貴方がリク様の裏稼業に気付いていないとこれからも振る舞えばよろしいのね。」

不器用なこの男の愛は、受け継がれていることをまた実感し、スズランはこの部屋で久しぶりにいつものように柔らかく笑う。


「気になるなら、見てお帰りになればよろしいのに。」

「…ふん。
…出来るわけ、無かろうが。」

あくまでも心配を表さない彼を、笑いながらからかう何倍も年下の彼女は度胸があるとしか言いようがない。


「貴方の御子息達は国になんて負けないわ。

─ご安心を。」


柔らかく笑ったそのあとに、また雰囲気をがらりと変えて獅子の女は唇だけに笑みを乗せて、挑戦的に笑った。