次の日の朝は、変わらない綺麗な晴れだった。


こんな時でもドレスを脱いで布団を被れば眠れてしまう自分に、部屋に差し込んでくる朝の光を見ながら苦笑する。

ベッドからずるずると抜け出すと寒さを覚えて暖炉へ指を向けて軽く振る。
キラキラとした光が指先で舞って、火気のなかった暖炉に赤い火がおこる。


「─あ…。」

鏡に映る自分は、やっぱり瞼が重く腫れていて、酷いものだった。

アズキを振り返ると、ベッドで幸せそうに眠っていて、起きる気配がなくてほっとする。


─こんな顔、いくらアズキにも見せられない。

赤い目尻を撫でてため息を吐く。

泣いた跡を見られることはいくら大事な親友とはいえ恥ずかしいことと、ナナセには認識がある。

弱味を見せない為の、幼き頃の教育とは思い出せないくらい浸透している、なんて彼女は勿論気付かない。


ナナセは水のない洗面台を見下ろしてなにかを呟き水を張る。

顔を洗おうと下を向いたら銀色が嫌でも目に入って、もう一度鏡を見る。

やっと胸元まで伸びた銀髪を見て、また苦しくなる。


─この髪も、ルグィンに言われて伸ばし始めたんだっけ。


─自分のまわりはこんなところまでルグィンがいっぱいだ…。


自分は知らないうちに他人に染まりきっていて、嬉しくも悲しくもあって。

─知らなかった訳じゃ、ないかも。

知っていて、否定していたのかも知れないと、ゆらゆら揺れる鏡のような水面の中の自分と向かい合う。


気付かなかった自分の思いの端々を思い知ってまた、じり、と熱が上がるから冷たい水にお世話になる。

ぱしゃ、と気持ちいいくらいの冷たさを感じた。

顔を洗って、目元を隠して、着替えて部屋が暖まるまで一息。


─暖かくなったら、アズキを起こそう。


─みんなが集まったら、今日こそちゃんと言おう…。