「…好き、でしょう?」

甘く優しい獅子の声音に、少女は糸に引かれたみたいに、自然に首を縦に振った。

「…うん…。」

肯定してしまえば、余計恥ずかしさがこみ上げてくる。


「…どうして知ってるの」

そんなナナセの問いに、スズランは口を尖らせて拗ねたみたいに言った。

「ずっと前から。

貴女が気付く、ずっと前から。

知らないだろうけど貴女はルグィンのこと、ずっと特別に見ていたわよ?」

「え…。」

思い返してみれば、そう感じる節もあるナナセは言葉を失う。



「今日おかしい理由は、ナコに出会ったのと、それだけ?」


スズランが、そう問う。

こちらを向かず、困ったように眉を下げて、悲しそうな目をしてナナセは息を吸い込む。
俯いた彼女から紡がれたのは泣きそうに細い声。

「あたし、こうやって人を好きになっちゃ、いけないの…。

王女、なんだもん…。」

やっと伸び始めた銀色の髪が、ふわりと風に遊ばれる。

闇に淡く発光する白銀は、いつ見ても綺麗なままだった。

「どうして?」

真意を確かめるために、スズランは聞き返す。

返ってきたのは芯の強い、ナナセの声だった。

「…王女として生きるつもりなの。

ルグィンと、決めたの。

ルグィンに頑張れって言われたし、あの人の願いが叶えられるように…。」

口から出るのは同じ名で。

彼女を回すのは全部一人の少年だと、スズランは困ったようにまた笑う。

お互いがお互いを大事にしているのは、第三者から見ればありありと分かるから。


─初恋同士の彼らたちが、どうか上手くいきますように。



「…貴女は、その道を選ぶのね。
王女としてもとあった道へ戻るのね。

…今の国を、変えるのね。」


「そう。」

みんなには明日、言うつもりだったんだけど…と続けてナナセは呟いて、もう一度息を吸い込む。

「だから、ね。

この心とこの道との両立は…あたしじゃ、出来ない。」

器用じゃないもの、と悲しそうに笑う彼女。


「だから、」

繋いだナナセの声を遮ったのは獅子の声。


「諦めるの?」

その声にやっとスズランを見上げた彼女。

揺らいだ瞳に滲んだ涙、固く引き結ばれた唇が、スズランに伝えた。

ふたり、その顔を見合わせた。
そのナナセの表情に、スズランも眉根を下げ、珍しく悲しそうな顔を露にした。



─お願いだから、ふたりの恋を叶えて。


獅子の彼女の願いは銀髪の王女にはまだ、届かない。