悲しそうで切ない顔を見ていたトーヤは、なんとも言えない気分になって、ただ沈黙を埋めたくて、言葉を紡いだ。

「ありがとう、ハルカ。」

するとハルカは少し明るい声で、続けた。

「ほかに聞きたいことある?」

無理に明るく笑って見せるハルカ。
こちらを見ては笑ってくれない。
ハルカの瞳とアズキの瞳とは、なかなか合わない。

じわりじわりとアズキの胸の内に広がる後悔を噛み締め始めたその時、トーヤがふと聞いた。

「じゃあ、あの前の国王のカイ様にはお会いしたことあるの?」


目を丸くさせて、ハルカは答えた。

「うん。毎日お会いしていたわ。長い銀髪がとても綺麗な方で、優しい瞳をしておられた。

……とても尊敬していたわ……。」


心なしか喋り方の変わった友達の背中はアズキにとって、彼女がいつもより遠く見えた瞬間だった。

「でも、王様はあの裏切り者の実の娘に殺されたんでしょ?」

トーヤが口を尖らせて言った。

「……そうらしいね。
娘に殺された父親って、寂しいね……。」

そんなトーヤに対して、ハルカは瞳を伏せて、小さく答えた。

「あのナナセっていう王女、相当ワガママだったんだって聞いたけど、ほんと?

王様を殺したのも、闇の魔術に手を出して、悪魔に魂を売り渡してしまって狂ったっていう話だけど……?
殺人者のあの王女、そんな人だったの?」

どこから聞いてきたのだろうか、噂話がトーヤの口から出てくる。
まるで、噂話に目がない女性のように。

「トーヤ!!」

そこまで王族を悪く言うのは駄目だと思ったのか、ハルカの身の上を聞くのは悪いと思ったのか。
迷ったままの顔つきでアズキがトーヤを咎める。

アズキが気を遣ってくれていることも知りつつ、ハルカはそのままトーヤに答えを返す。

「そうだなぁ。
王女は我儘でいつも部屋を抜け出していたわ。
けれど闇の魔術に手を出した話は知らないわ。
今、多分あたしたちと同じ年じゃないかしら。」

「ふぅん……」

納得した顔でトーヤはハルカを見つめる。

王女の話をするハルカが、どこか寂しそうに、哀しそうに見えたのは、アズキだけ。
そんなアズキの視線に気づいてか、悲しそうな表情をするハルカはアズキに小さく大丈夫、と答えた。
何も知らないトーヤはまだ話を続ける。

「早く捕まるといいよな。
そしたらハルカも心配しないで旅が出来るのにな。」

「……ほんとうだね……。
さぁ、トーヤ帰ろう?
アズキ……あれ、アズキは?」