空色の瞳にキスを。

ひらりとかわしたナナセの背後をルグィンが瞬間的な速さで狙ってきた。

それを屈んでまた避けて、そしてナナセが膝のバネを利用して刀を突き出した。

銀が、黒が、所有者の動きに付いていけずに宙に遊ぶ。

「っと!」

初めてルグィンが声を漏らした。
驚きの混じった声に、少し見開いた金の瞳。

間近でその目を見た彼女はそれに勝利を確信する。
そしてとどめとばかりに声のした方へと身体の軸を利用して回転する。

しかし、彼女が振り向いた方向に黒猫はいなかった。
次の瞬間にナナセの背後で吐息を感じた頃にはもう遅い。

「―ッう…。」


首もとには冷たい金属の感触。
刃引きはされていたといえ、その感触はナナセにとってあまり気持ちいいものではない。

ナナセの首筋に腕を絡めて、彼女が動かないようにする様は、もう闘いの二人ではない。

「―残念だったな。」

首もとで囁かれた低い声に銀髪の少女はぞくりとして、ぎゅっと剣の柄を握り締める。
しかしその声音に固まったのは一瞬で、次の瞬間にはいつもの振る舞いを取り戻す。


「うん、残念だったなぁ。」

くすりと笑う柔らかな少女の声に、二人はどちらからともなく身体を離す。


今回は、ルグィンの勝ちだ。
少女は少し心に滲んだ悔しさを噛み締め、次こそは勝ちたいと思う。

黒猫はなかなか守らせてくれないこの少女に勝ったことで、次は何とかして守りたいと、決意を新たにする。

─次がなければいいが、こいつのことだ、そうもいかない。

決意を秘めた金色の瞳で、守ると決めた銀色の少女を見据えた。


─一人で戦っても強いけれど。

─独りで戦わせたくは、ないから。

─だから、ナナセよりは、強くありたい。

そんな決意は知らずに、銀の少女はアズキたちのもとへと向けた足を止めてルグィンを振り返る。

彼女のその振る舞いに、ルグィンは自分が自然と足を止めていたことに気が付き、彼女の元へと足を動かす。

目の前の空色が笑っているのを見ながらまた、決意を固めた。