「ごめん…。
手間取らせて…。」

トーヤがアズキとスズランとを交互に見ながらそう呟くと、スズランは笑いながら答えた。

「気にしないで。
アズキがちょっと魔力が強くて、操作が上手なだけよ。

あなたが普通よ。
まぁでも、普通よりはいい方なんじゃないかしら。
アズキには追い付こうとしなくていいわ。

貴方と彼女は種類が違うもの。」

「種類…?」

首をかしげるトーヤを眺めていたナナセの隣に座っていた黒猫ががさりと衣擦れの音をさせて立ち上がる。
彼女が隣を気にする間もなくスズランが答えを紡ぐからそちらに気をとられる。

「そうよ。
アズキは予知魔術、時を知る魔術。

トーヤは攻撃魔術でしょう?」

少しぐらいは察していたでしょう、とでも言いたげな調子でスズランは妖艶に口元を上げてトーヤを見る。

「…それも、貴方もいい魔力持っているわ。

この場で魔力を整えて大きくしていると、後々に躓くことがなくて済むわ。」

頑張れ、と言葉の端に応援を含んでスズランが珍しく子供っぽい笑みを浮かべると、トーヤも元気付けられたのかやっと微かな笑みを浮かべる。

ごろん、と床に寝転がっているトーヤと、息をついているアズキを眺めていると、黒猫がナナセの隣に帰ってくる。

ぎぃと床が軋む音と、独特の物静かな気配を感じて、隣を見上げると、剣を片手に携えてルグィンが立っていた。

「なぁ、少しだけでいいから、相手してくれないか。」

「あ、あたし?」

自分に人差し指を向けて、戸惑うナナセにルグィンは頷く。

「スズランよりも、お前の方が強いだろうし。」

「こら!」

スズランが投げた紙屑が豪速球となって飛んできたが、するりと避けた。
そしていつもの金の瞳で睨む黒猫に、文句を垂れる。

「そりゃナナセの方が強いけれどね!
いいわ、開けてあげるわ。

二人とも、端に寄るわよ。」


間の抜けた返事をした二人はスズランと共にゆっくりと脇に退く。

「なぁ、相手、してくれるか?」

「私でよかったら、いいよ。」

なにに誘われているのか疑問に思ってしまうほどに、嬉しそうな笑みを浮かべて、銀髪の少女は頷いた。

立てかけてある武器は何でも使っていいわよー、なんて言っている獅子の少女に甘えて、いつも使う片手剣に近いものを手に取る。

彼女が使うのは細身の魔力をほとんど使わなくても使えるような軽い剣。

手に取って見てみると刃引きしてあることに気付き、少し安心するが気を引き締め直す。

─これを真剣と思わなきゃ、ダメなんだ。


目を閉じて、ゆっくりと長い息をつく。

そしてもう一度開いた目は、武人のそれをしていた。