「そうそうアズキ!
上手い上手い!

そうやって身体の重心を下に下に持っていくように…。」

スズランの少し低めで強い声が響く。

ふー、と深い息を吐いて床に胡座をかいて座る二人。
目を閉じて、集中している。

アズキの燃えるように吹き出ていた赤の魔力がゆらゆらと揺れる程度におさまっていく様子が、ナナセには見えた。
アズキから漏れ出していた大きな魔力は、これで蓋ができたようだ。


─流石、サラ婆がアズキの魔力を封印したいと願うだけあるな…。

銀の少女はふ、と息をついた。

スズランの指導を後ろから見守っているナナセにそう思わせるほどに、先見の少女は才があった。
教えられたことはそつなくこなし、上手く自分の魔を抑えられているようだった。

これでアズキの魔力の暴走は免れた、と彼女はほっとする。

一方トーヤは、さっきからいつもスズランの声がかかっている。

「もっと魔力を開いて!
心を強く!

アズキとは逆よ!」

強い獅子の少女の声に、トーヤの肩がびくりと震える。

─まぁ、これが普通か。

とんとん拍子に進まないトーヤに、安心してしまう自分がいる。

ナナセはちょっとおかしいな、と小さく笑う。


あまりにも上手くことが運びすぎることがなくて、開発され過ぎていないことにほっとする。

魔術の無理な開発は、魔力の扉を壊し、暴走を引き起こす危険性を高めていく。

アズキの飲み込みの良さは、きっと元の才能からなるもの。
しかし、トーヤの上手くいかない様子は魔力を開発され過ぎていないからだろう。

それを考えて、少女はほっとする。

─二人の危険がひとつでも少なくて、よかった。


ぱんぱん、と手を叩いて二人の目を開かせたスズラン。

その音は思案に耽っていたナナセをも驚かせる。


「ふたりとも、ちょっと休憩!
一度休んでいいわ。」

気を張っていた二人はなんとも言えない声をあげて足を崩す。
脱力したトーヤは床にそのまま倒れる。

冬の空気のなかでうっすらと汗をかいて上気した頬を見れば、どれだけ気力の要る訓練なのかは分かる。