朝食を終えると、宿泊している一般の人間が使う訓練室とは別に作られた地下の訓練室に通された。

ひやりとした空気とちょっとの煉瓦の匂いが五人を包む。
スズランに案内された地下は火が灯らないと真っ暗だった。
地下室があることに案内された全員で驚いていると、様々な武器が廊下まではみ出るほど乱雑に置かれていてまた驚く。

ナナセは闇商人の中身を見たような気がした。
一商人のこれだけの武器を揃えているということで、彼女の手腕が容易に窺えて、また彼女の強かさを実感する。
言葉少なに獅子の少女を先頭に歩いていくと、進んだ廊下の先にポツン、と木で作られた周りよりも少し古そうな扉が現れた。

「あの部屋…?」

アズキがポツリと尋ねると、スズランが手に持ったランプを揺らさないように気を付けながら振り向き頷く。

「よく分かったわね。
あそこが訓練室。
ここには見られちゃいけないものばかり集めてるから、物騒でごめんね。

でも人に見られない大きな部屋って、ここぐらいしかないの。」

ナナセが足を止めることなく、ぽつりと言葉を落とす。

「あの部屋だけ、ぴぃんと張っている。」

「…まぁ、張り詰めた空気をしてるわね。

綺麗ではないけれど、この屋敷の中で一番清浄な場所ね。」

たどり着いた扉の表面がゆらゆらとランプに照らされて黄色を帯びている。

少し優しい輝きを放つ銀色の取っ手をスズランが引いて、中へと入る。

ランプに照らされて見えたのは入り口に近いほんの小さな空間だけだった。
奥は闇に包まれていて、何も見えない。


「真っ暗…。」

アズキの独り言が部屋に吸い込まれてゆく様子から、この部屋が相当の大きさを有することをナナセは感じる。

昼間とはいえ、地下のこの場所には光はまるで届かない。
スズランが片手に掲げた魔法のランプの届かないすぐ目の前は、もう闇にのまれていて。

計り知れない深い闇が不思議な色をしていて、アズキは目の前の銀色の少女の茶色いコートをぎゅっと握った。
ナナセはそんな彼女をはねのけることなく、特別に何も言わなかった。

そんなアズキの動作の隣で、スズランはランプを持っていない方の手の指をぱちんと鳴らす。
それと同時に短い単語が紡がれた。
誰にも読み取れなかった、彼女の魔法の言葉。

二つが合わさって、魔術が出来上がる。