目が覚めたら、天井が見えた。

ランプもなにも点いていない闇を見て、今が夜だとナナセは認識する。

淡い青い瞳が柔らかく闇に輝く。
ゆっくりと体を起こして辺りを見回しても誰もいない。
てっきりあの軍服を着ていると思っていたのに、いつの間にかワンピースに着替えていて、これはスズランの仕業だな、とくすりと笑う。

手をついたら、ぎぃ、と木の軋む音がしたから、自分がソファーに寝かされていたことがわかる。

どうやらここは自分の部屋らしく、向かいの自分のベッドにはアズキらしき膨らみがある。

カーテン越しに微かに漏れてくる月明かりの中、ナナセはぼんやりと部屋を眺めていると、次第に記憶が蘇ってくる。

─あぁ、あたし、寝ちゃったんだ。

─どこで?

─ルグィンに抱きしめられて。

抱き締められた感触は、まだ思い出せるくらい嫌に生々しくて。

背中をさする大きくて堅い手の優しさや、抱き締めたときに触れた首筋の熱が、まだ体のあちこちに残ったままで。

訳も分からず彼女は誰かが自分にかけてくれたシーツを抱きしめて頬を染める。
誰が見ているわけでもない自分の部屋で、誰かに見られては恥ずかしいと俯き顔を隠す。

じっと固まっていると、瞼の重さを感じて、なぜ泣いていたのかを思い出す。


─これから、どうしたらいい?

シーツを抱きしめたまま、ナナセは窓の方へと歩み寄る。

考えなきゃならないと分かっている。

だけど、心は考えることを拒絶するみたいに、部屋のあちこちに気をとられてしまう。

あの時の血は綺麗に片付けられたんだとか。

またスズランの着せ替え用のあたしの服が変わっているとか。

ルグィンの好きなクッキーの種類が部屋に備え付けられた台所の戸棚に増えているとか。


そんなことばかりに目がいってしまって、落ち込む。