空色の瞳にキスを。

アズキの寝息をルグィンの耳は感じ取る。

自分に身を預けきった少女の温もりも彼は感じる。

そんな雑音を心の外へ締め出して、ルグィンは薄い唇から言葉を紡ぐ。

「アズキやトーヤから身内を取ってしまったのは、お前の中では辛いんだろう?」


ルグィンの耳元でこくりと頷く気配がした。

それを感じて、また黒猫の少年は口を開く。


「なら、親の元に返せる世界にすればいい。

今の世界じゃまた追われるだけだろ。

そうすればお前と大事なものの行き来ができる。

もしもそれでナナセを選んだって、お前も後ろめたくはないだろ?」


ルグィンは語尾を少し上げて、聞いてくる。

その囁きはナナセの中の願いでもあった。


もしも、そんな世界を作れたら。
だけど叶えるのは難しい。

そんな世界に近づけるためには、国を変えなくてはならないから。

「それは、あたしに王様になれって言っているの?」

─彼女は賞金首。

その道の辛さを知っているから、ナナセへと向けられた言葉は曖昧になる。


「さぁな。
なるのは難しいだろうし。

でも俺はお前が王になれば、優しい国になると思う。」


自分の想像を言ってしまってから、思ってしまう。

─こいつは優しいから、なれといったらなってしまいそう。


「ナナセはなりたい?
今からどうしたい?」

そう尋ねる低く優しい声に、ナナセは想いを紡ぐ。

「運命をあたしに変えられるなら、国を救えるなら、あたしは王になりたいよ。
だけど、命を捨ててまではやりたくない、なんて卑怯な考えでしょ?

…あたしの願いは、みんなで平和に過ごすこと。」

願いを口にする少女。

そんなありきたりな願いさえ、彼女は8歳から遠ざかっているのだ。

「あたしは、みんなに笑ってほしくて、そのためだったらなんでもするよ。」

少しだけ、いつもの芯のある声に戻ってきた。
でもその声も、弱くなる。


「まだ決めなくても…いいかな?
ちゃんと考えたいの。」

ナナセは抱き締められたまま、前に映る壁を見て小さな声で言う。