空色の瞳にキスを。

彼の切ない声音は、ナナセの心を震わせて。

頭の奥がくらくらして。


─どうして、そんな声であたしに言うの。


低くて優しいルグィンの声は、彼女の心を落ち着かせて、また揺らがせる。

嫌いではないその声は、今は捨て猫みたいに彼女には聞こえて。

ふふ、と思わず彼の腕の中で肩を揺らして笑ってしまった。

「…どうした?」

ひどく心配そうな声音が耳に小さく響くから、それもおかしくて。

まだ笑いながら理由を告げると、愛想のない声がする。

少しだけ拗ねたような声は耳にかかってくすぐったい。

「別にいいだろ。だから、聞かせて。」


どこまでも真剣な声に、ゆっくりと目を閉じてナナセは覚悟を決める。

「うん…。」


心の奥の想いを吐き出すのは、まだまだ慣れていなくて、上手くいかない。

唾を飲み込んで、口を開く。
膝に置いた手は自分の服の裾を、固く握りしめる。

「あたしが運命を廻すって、スズラン言っていたでしょ…?

なんで、あたしなのかな…?」

さっきころころと楽しそうに笑った声が、震えていた。


「王女だから?
ルイの石を持ってるから?

やだよ、やだよ…。」

彼女の弱音は、静かな部屋の空気に吸い込まれていく。

反論するわけでもなく、ルグィンは静かにナナセの声を聞いていた。

「運命を廻す人なんて、そんな大事な役なんて、あたしは要らないの…。

あたしはみんなと平和に過ごしたいのに、それは出来ないっていうことでしょう?

確かにあたしは国を救えるよ。

確かに国を助けられるよ。」


震えた声で、泣きそうな声色をして、でも簡単にその台詞を彼女は言ってしまう。

彼女の本当の地位を示しているみたいに、馴染んでいく。

「祈りを続けるためにお城へ行けば、あたしはきっと捕まるわ。

祈りの期限を先延ばしにして、終わればまた利用されるか殺される。


祈りから逃げればきっと、アズキやトーヤはいい思いしないわ。

こんな風に笑顔なんか向けてくれない…。」


その想いは深く聞かなくても分かるから、黒猫は抱き締めたまま先を促す。

うん、と静かに聞いてくれるルグィンに安心してナナセはまた口を開く。