空色の瞳にキスを。

抱き締めたルグィンの腕はそんなに苦しくないのに。

確かに安心はそこにあるのに。


なのに、心臓を鷲掴みされたみたいに、苦しい。

なにか違う意味で苦しくて、どうしてかナナセは泣きそうになる。

嫌悪感は抱かなくて。

むしろ、この胸の痛みを除けば安心をもたらしてくれる彼のぬくもり。

切なく優しい彼の香りに包まれていれば、どちらの苦しさも少しは薄れていく。


しばらくナナセは動かずに、じっとルグィンに温められるように抱き締められていた。

苦しさは消えないものの、ナナセの心臓は緩やかに脈打つようになり、落ち着く。

─やべ。

─止まらねぇ―…。


柔らかな少女の肌に触れたいと、衝動に走りそうになった。


─自分のものではないのに。

熱を持った頬は、彼女の肩に顎を置いて見えないところに隠してしまう。

この世界で一番敬われる、優しくて神秘に満ちた銀の髪色がすぐそばにある。

それはなにか苦しくて、切なくて。


この銀の少女に触れたいと願ってしまうのは、いけないことだとルグィンは思う。

左手に直に感触の伝わる柔らかな髪を梳きながら思う。


─そんなことをしてしまえば、こうして信頼を寄せてくれることなんてなくなるのに。


─一秒でも、ずっと彼女の隣にいるほうが、一時の感情に任せて言ってしまうよりもずっといいから。

そう理解はしているのに、止まらない。


心は先走ってしまう。


離れなければと分かっているのに、想いは溢れ出す。



少し優しくて甘い少女の香りが。

自分よりちょっとだけ速い息遣いが。

自分よりも少しだけ熱い彼女の体温が。


ルグィンの想いを止めさせない。

「…ナナセ─…。」


愛しそうに薄い唇がその名を紡ぐ。

少女はそれには応えないが、構わずに続ける。


「泣けば、いい。

辛いなら、吐き出せばいい。

お前の心を聞かせて。

なぁ、ナナセ─…。」


銀に隠れた耳に、そう囁いた。


ブーツを履いている投げ出された足が、微かに動いた。

ぎゅ、と縮まった。