空色の瞳にキスを。

ぱたんと優しく閉まった扉の音を聞いて、ナナセは床にへたりこむ。

彼女がもたれたベッドで静かに眠るアズキの寝息を耳で感じながら、そっと息を止める。


俯き顔を上げない銀の少女の顔は、隣に立つ黒猫からは伺えない。


柔らかく、だけど張り詰めた重い沈黙が二人の世界を包み込む。


二人は息を詰めて、動かない。


俯き顔を上げないナナセの銀に、大きな手が乗る。

その手の温かさに、彼女の顔が上がり、金の瞳を見つめる。


感情の欠片を抑えた空色の瞳を見ながらルグィンは彼女の隣へ座る。


ゆっくりと彼女と向き合い、静かに空色を見つめれば、堪え切れなかった想いが突如滲む。


不安と、戸惑いと、後悔と、悲しみが、銀の王女の瞳の奥に揺らいで。

堪えた涙が目の端で潤むのを見て、彼女の頭に手を回す。

銀の細い髪がさらりと梳かれ、その間に彼の長い指が差し込まれる。

彼の手は優しくて、温かくて。

落ち着くけれど、だけど泣きそうになるくらいに切なくて。


優しいその手に、彼女は抵抗なんかしない。


大人しくルグィンを見上げる体勢のまま、銀の前髪に隠しながらゆっくりと空色の瞳を閉じる。

閉じた瞳の目尻から、透明な涙がぽろりと零れ落ちた。


その涙に、ルグィンの抑えていた理性が崩れる音がした。


サラサラと銀髪を梳いていた彼の手は後頭部にまわり、もう片方は背中に。


ひゅ、と銀の王女の息を飲む音が、鼻先で聞こえた。

ルグィンはナナセを抱き竦める。


彼の唇が頬を薄く掠めて。


ナナセの肩に顔を置いて、壊れた理性を必死に直す。


ナナセは青い目を丸く見開いて、すぐ隣でする息遣いに赤面する。


それに、口付けはしていないに近いけれど、ルグィンの唇が頬を確かに掠った。

それについてか、それとも抱き締めたことへなのかは自分でも分からないけれど。

ナナセは早くなる自分の鼓動を感じる。

それを感じてしまえば、更に鼓動は速くなり、顔は赤くなり、思考は止まる。


アズキを寝かしたこの部屋は、実質二人の世界。


それに気づいた少女は、怪しいことをしているわけではないけれど、顔をまた火照らせて黙りこむ。

─息、出来ない。