ハルカの手は忙しく動いているのにサラの表情は全く変わらない。
やっぱり、ハルカでも駄目なのかと、アズキがそう思ったその時。

「ぅ……ん」

瞼が震え奥から薄い赤の瞳が覗いて、小さな嗄れた声がした。

「おばあちゃん!!」

アズキは驚きと嬉しさに叫んで、布団に寝ている祖母のもとへ駆け出す。
トーヤもアズキに続く。

「アズキ。
サラ婆ちゃんはまだ動いちゃいけないけど、もう大丈夫だよ。」

まだ瞳の青いハルカが最後の魔術をかけながらアズキに言った。

「おばあちゃん!!おばあちゃん!!」

布団のそばまで来たアズキは涙を頬に伝わせながらサラを呼ぶ。
トーヤは後ろから不安そうに覗きこむ。

「……アズキかい?」

まだ意識の朦朧としている中、サラは孫の声に反応する。

「おばあちゃん、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だよ。この子に助けて貰ったから……。

それより、ハルカちゃん、お前さん……。」

サラがハルカを見上げたその目に映る動揺に、心当たりのないハルカは怪訝な顔をした。

「わたしゃ、魔力で人の記憶を覗けるんじゃぞ?」

サラが嗄れた声でハルカに告げた。

「──え、うそ」


ハルカが目を見開き、口元を覆った。

隣にいるトーヤとアズキの二人はサラとハルカの間に漂う空気に、何も言えず顔を見合わせた。

「大丈夫じゃ。
全て見たから、心配するな。
……誰にも言わぬよ。」

青い瞳のハルカにサラは温かく微笑んだ。

「サラばあちゃん、ありがとう……。」

ハルカはほっとしたようにサラに笑った。

気まずくなったトーヤがカーテンを開いた。
途端に窓から光が差してくる。

「眩しいっ……。」

アズキは声をあげた。
それから改めてハルカの方に向き直った。

「ハルカ、ありがとう。」

「ううん、どうってことないよ。サラ婆ちゃんが無事で、良かった。」

サラの茶色の眼を見て嬉しそうに微笑む。そんなハルカの黒髪が、アズキには光の加減でそれは綺麗な銀色に見えた。