空色の瞳にキスを。

「良かったの?」

大人びた少年が獅子の少女を追いかけながら尋ねてくる。


「あの二人のこと?」

廊下をすたすたと歩きながら、背中の少年に向けて言葉を生む。

振り返らずに少年の沈黙を感じて、それを肯定と受け取る。


「あの子は別に大丈夫よ。

多分自分が運命を回すって知って、混乱してるだけ。

今は整理したいんじゃない?」


歩みを止めずに、消えそうな声でそう紡ぐ。

その声がひどく弱々しくて。

トーヤはこれ以上問うことが出来なくなる。


そして彼女はひとつ、ため息をついて瞼を閉じる。


瞼の裏には、弟のような黒猫と隣に寄り添う王女の姿。


─ねぇ、ルグィン。


─貴方の未来がナナセのように視えなくて。

─ナナセを助けたのは偶然じゃなくて。

─貴方の運命の、必然なら。


「貴方の運命もまた…廻り始めるわ…。」


ぽつりと滑り落ちたスズランの断片的な言葉は、神官の言霊のようにトーヤの心に染み込んで。



─狂わせはしない、大事な二人の運命は。


そこまで考えて、狂っているのかは分からないな、とまた獅子はくすりと一人で笑う。


─だけど、もう。


「廻り始めたわ…。」


この先は何があるのかなんて、先見の才を持たない彼女には分からなくて。

だから彼女は祈る。


神様なんて信じていないけれど、なにかに向かって。


─お願い。


─あの子達の未来は、明るいものに。


途切れ途切れに聞こえてくるスズランの祈りを聞くのはどうしてかいけないことに思える。

だけどその声音から強くて、温かな心を言葉の端からトーヤは感じる。

トーヤの視界に映る栗色の髪は、その姿に似合ってひどく綺麗に、そしてどこか切なく映った。