空色の瞳にキスを。

トーヤの傷付いた顔を見て、ナナセはまたまざまざと見せ付けられた気がした。


トーヤとあたしとは住んでいる世界が違う、って。

世界の違う彼を無理矢理引きずり込んでしまったのは、あたしなんだ、って。

唇を噛み締めて、俯く。


落ち込んで悩んだままでは何もならないと分かっていても、こればかりはどうしようもなくて。


無理矢理でも切り替えられたのは、スズランの声がまた続いたから。


「未来って、ある程度決まっているのよ。

人の運命って、こうなるだろうっていうのが先見の魔術師には見えるらしいの。

例えばこの子、アズキさんとかにはね。


でも、難しいけれど、道を選んで、その運命に流されないように生きることもできるわよ。」

そんな証明もできないような物事でも、彼女が言うなら、と飲み込めるようになってきたトーヤ。

悲しいほどに順応が早いトーヤに、また空色の瞳がぐらりと揺らぐ。

こんな風になってほしくなかった、なんて自分が言える義理じゃないけど。

けれど、そうやってこちらの世界へ馴染もうと必死で頑張る親友を見ているのは辛くて。

こんなところで自分が泣いてはいけないと、涙を堪えれば、喉が熱くなって、苦しくて。

スズランのは芯の通った声を聞きながら、ナナセはまた俯いてしまう。


「少しぐらいは必ず見えるものなの。

それが視えないというのは、おかしいことなの。

これは分かるわね?」


覗き込むようにして首をかしげたスズランに、トーヤがこくりと頷く。

「全く視えないのは、運命がその人自身に委ねられているということ。」

低くて強いスズランの声は、静かなこの部屋に響く。

微かな物音もしないその部屋はやけに不気味で、重たい空気が漂う。

唇を舐めて、獅子の女はまたトーヤを射るように見つめる。


「大抵それは、国や世界を大きく揺るがす人よ。

彼らの行動ひとつで、国や世界が変わっていく。」


感情を込めない淡々とした声が、そう紡ぐ。

その言葉の意味を知って、トーヤは恐る恐る尋ねる。

「…じゃあ、ナナセは…。」