空色の瞳にキスを。

「…よく分かったね。」

へら、と笑うアズキの表情は辛そうで、見ていて悲しかった。

少女が泣きそうな顔をしたからか、先見の少女がわざと底抜けに明るい声を響かせる。


「でもね、ナナセ達は先が上手く視えないの。

一番視えないのはナナセ。

二番目は黒猫さん。

トーヤも視えにくいの。」

不思議だなぁ、なんて続ける先見の少女にスズランは見入ってしまう。


「…え…。

ちょっと待って、視えているの?」

その話を初めて聞いたスズランが狼狽える。


「…うん。

視えるよ、何もかも。」

泣きそうな、悲しそうな、それでいて悟ったような、アズキにしては大人びたその瞳。



時には、死に際が。

時には、幸せが。

時には、生まれた場所が。



視えることはすごいことかも知れないけれど、慣れないアズキには辛い。

たくさんの映像が、自分の触れる場所やいる場所から通して流れ込む。

逃れられないその力は、アズキの精神を少しずつ削っていく。


「それはもう…暴走の手前ね…。」

スズランは深いため息をつく。


「もう視ない方がいいわよ。

…って視えてしまうのか…。」

スズランにどうしようもない事実に、ふるふると首を振る。


「うん。」

瞳を伏せて頷く彼女は酷く悲しい笑顔で。


「ちょっと、ごめんなさい。」

スズランは椅子を軋ませて立ち上がり、向かいのアズキへと近寄る。

机を回り近付いてくる獅子の女をアズキは不思議そうに見上げる。

「なに?」


「ごめんね。」


スズランが手刀でとん、とアズキの首筋を軽く叩いたようにまわりには見えた。

だけどそれだけではなくて、アズキは瞳の力を失って、がくりと崩折れた。


「っと…。」

アズキは慣れた手つきでアズキを支える。

力なくスズランに支えられたアズキを見て、トーヤは頭が真っ白になる。


「何しやがる…!」

怒る彼に彼女は悲しそうに笑った。

「…これが一番いいのよ。

夢にも視ないし、触れても視ないの。」



「でもスズラン、急すぎるよ。

アズキは了承してないよ。」

ナナセはそう言って口をへの字に曲げる。

銀髪の彼女に黒髪の少年が文句を続ける。


「…そうだぞ。

お前いい加減自分の意志だけで暴走するの、やめろよ。

被害者は俺とナナセとそいつだけで止めておけよ。」

「…はは。」


前科者のスズランが乾いた笑いを溢した。