空色の瞳にキスを。

「そういうものじゃないわ。

ただここには訓練室と医療魔術が得意な私とナナセがいるだけよ。」


スズランの凛とした口調に、トーヤが顔をしかめて口を開く。


「医療魔術って…」

「傷を治したりすることが有名な魔術だけど、他にも人の魔術を強化することも出来るの。」

もちろんこれは改造魔術は使わないわよ、と付け足す。


「じゃあどうやって?」

その問いは獅子の声が簡単に返す。


「その人の気力と、それから魔術師の導きで。」

随分粗いスズランの説明だが、これしか言いようがない。

簡潔すぎる彼女の答えに、トーヤはちらちらと彼女を見る。


その視線に気付いたスズランがまた説明を付け足す。

「これが一番、その人の魔力の扉に優しい方法なのよ。

体にも負担がかからないわ。


無茶にその人の魔力の扉を開けることなく、ゆっくりと強くする。」

その説明に、またそう言いながら影のある笑みを浮かべる金髪の女に、アズキやトーヤは声を飲み込んでしまう。



トーヤはひとつ、ため息をつく。
─閉じ込められた施設の中で、開発の魔術をかけられたときのあの苦痛を味わなくて済む。

そう思うと、幾分トーヤはほっとした。


その表情をばっちり見ていたスズランは、明らかなトーヤの安堵の表情に小さく微笑み、口を開く。

「じゃあ、明日から始めましょうか。」


スズランの女にしては少し低いその声が紡いだ予定を、トーヤが驚いて聞き返す。


「明日から…?
そんなにすぐ?」


あんまりにも急じゃないか、とでも言いたげなトーヤにナナセが答える。

「うん。

特にアズキがすぐ始めなくちゃいけないの。

実は結構重たい症状出てるはずだよ。」


柔らかいいつもの口調に少し真剣な空色の瞳。

その瞳に圧倒されて。

銀髪の彼女は隣に座る片赤目の少女に尋ねる。


「アズキ、触れれば何でも先のこと視えてるでしょう?

先見の力が暴走しているでしょう?」


─こういうとき、ルイの石と共に少しだけ受け継いだ、おじいさまの記憶は役に立つのね。


ナナセは切なく笑う。


人の人生がひとつ分あるのだ。


力の暴走した事例も記憶にはあって。


普段は抑えている祖父の記憶を紐解けば、暴走の初期段階は何でも未来が見えるとあったのを思い出す。