空色の瞳にキスを。

銀の少女へと向けられた質問に、獅子の少女が答える。

「…そのままよ。

貴女が貴女の力に使われて、魔力が暴走することを指すの。

…貴女の魔力は大きすぎるから厄介よ。
暴走すればどうなるか分からない。」

流石に場合によっては死ぬ、なんて台詞はスズランでも飲み込んだ。

それでもそれは、言っていないその台詞はアズキには伝わる。


真顔でさらりと言ってしまう彼女に、全てが本当だと嫌でも理解する。


けれど、急にお伽噺の中に迷い込んだような自分をがふわふわしていて気持ちが悪くて。

事実ばかりだと知っているのに要領よく整理できない自分に惑う。

馴染みのある世界とは違う次元の違う話を上手く飲み込めるほど、アズキは器用ではなくて。


小さな沈黙のあとに漏れたのはアズキの泣き声。


「全部…本当だって、分かってるのに…。
心が追い付かないよ…。」


隣に座るナナセが優しく手を回してくれるから、彼女の肩に顔を埋めた。

優しくて切ないナナセの香りが、泣き出したアズキの心を優しく包む。

「私をこのままの状態で放っておけば、死ぬんだって自分の未来が視えるから…。

暴走したら自分が世界を変えてしまえるって、視えて知ってるから…。

だからスズランさんに頼らなきゃならないのも分かってるの…。」


うん、と相槌を打つナナセの声がアズキの耳元で紡がれる。

その声がやけに切なくて、悲しくなる。

分かるよ、と言われてるようで。


嬉しくて、切なくて、心はぐらぐらと揺れる。


自分がここで獅子の彼女たちの力を借りない道はないと知っていても、それでも先に進む勇気は要る。

生半可な気持ちでは歩めぬ道を選ぶのだから。


「だけど、ナナセと同じ世界に行くと決めたけど…!

怖いものは怖いの…。」

弱々しいアズキの声に、部屋は沈黙に包まれる。


「アズキさん。」


さっきまでの筋の通った声とは、何か、込められた心が違うスズランの声。

声音の違いに顔をあげたアズキに、とても強気なスズランのものとは思えない顔が向けられる。


痛々しいような、そんな。


「私も、あったわ。
この世界は暗くて、黒いから。

飛び込むには勇気が要るね。」

フォローするでもなく、励ますでもなく、ただ事実を述べて同意を示す。


「この闇で生きる人がみんな悪人だと思っていた頃は、ここに飛び込むのが自分も悪人の仲間入りをするみたいでね。」


「でも意外とそうでなかったりするのよ。

さっきのリクだってそう、ルグィンだって、強くて、時々脆いけど優しいの。

きっと、貴女が今までいた世界と変わらないところだってあるわ。

でも、変わるものもあるわ。」


ゆっくりと瞳を伏せる。


「時間はないけど、納得して貰わなきゃ、次の話には進めない。

ゆっくり悩みなさい。」


アズキの中では道は決まっている事だけれど、スズランは納得いくよう時間を与える。


これは諭したりしない代わりの、彼女の優しさ。