空色の瞳にキスを。

黒髪の少女にもう一歩近付き、金髪の男はファイの手を取る。

跪いたリクは、抵抗しないファイの手に柔らかな唇を添える。


「ルイの王家に今も変わらぬ忠誠を。」



驚きで目を見開いているファイとリクは目を合わせて、悪戯っぽい笑みを向ける。

どこかの王子さまのような恭しい行為も、彼になら文句なしに似合ってしまう。


屋敷の屋上で展開されたどこかの王宮のような雰囲気から、まわりの人間が現実へと徐々に引き戻される。


「─ッな…!」

ルグィンが拳を握りしめて、怒りに満ちた瞳でリクを睨む。

アズキとトーヤは目を丸くして固まることしか出来なかった。


「ちょっと、リク!」

焦ったスズランはリクを引っ張って立たせる。


腕を引かれたリクは困ったように笑みを浮かべる。


「ただ僕は王女様に忠誠を誓っただけ。

スズランもルグィンくんもそんな怖い顔しないで。」


その穏やかに返す様子にすっかり毒気を抜かれたルグィンとスズラン。


「あたしがそうだって、知っていたの?」

「はい。
スズランからも聞きましたし、何より僕の情報網です。

でも心配は要りませんよ。

僕やスズラン以外の情報屋には知られていませんから。」

ファイは完璧な笑顔を向けられる。


納得しない顔を浮かべているファイに、スズランが説明を付け足す。

「どうして分かるかってね、こいつ、私と同じくらいにスパイがいるの。

城にも潜り込ませているのよ。」

安心して、とにぃと笑うスズランにやっとナナセがほっとした顔をする。


「そこは企業秘密なんだけどなぁ…。」

と、困ったようにまたリクが笑う。

「さぁ、寒いし中へ入りましょ。」

雰囲気を切り替えるようなスズランの声に、皆が同意した。