銀の少女が朝の光に目を覚ませば、濡れた頬に気が付いた。

―夢、か。

そこで気が付く。

「夢渡り…!」


ナナセは飛び起きて隣の部屋へと飛び込んだ。

「ルグィン!」

「おはよ。」

早朝だというのにもう隣の部屋の黒猫は服装もきちんとしていて、振り向いて笑う余裕さえあった。

対して夢の内容を伝えようといっぱいいっぱいな銀髪の少女は、起き抜けの服装で、最低限しか身支度はしていない。

「あ、おはよう。

あのね、あたしアズキの夢を渡った!」


「夢渡りか…!」

黒猫の金の瞳が大きく見開かれる。


「そう。

あのね…。」


彼女はそう始めて、メノウに二人がいること、彼女の瞳の話を伝えた。


「そうか…。」

「うん…。」

「それは一応伝えておくべきだな。

心構えがある方がいい。」


「うん。そうだね。」

空色の瞳は一瞬だけまっすぐに金の瞳を見つめてお互いの意思を確認し、ナナセは踵を返して部屋を駆け出ていく。



「エリさん、コルタさん!」

素早く着替えたナナセが階段を駆け降りていくと、寝間着姿で部屋から二人が何事かと出てきた。

「…アズキに、夢の中で出会ったの。」

ぐらぐらと瞳が揺れるナナセの口からそんな言葉が溢れると、アズキの両親二人ともの顔が固まる。

「本当か…?

…でもそれはただの夢だろう?」

コルタの動揺を含んだ声が、朝早くの台所に染み渡る。


「違うよ、コルタ。

ただの夢じゃないのさ。」

アズキによく似た老婆の声がコルタの背後から聞こえた。


「…サラ婆…。」

ナナセの小さな呟きに、老人は早起きなのさ、なんて答えて笑うサラ。


「お母さん、それはどういうこと…?

夢は夢じゃないの?」


戸惑いを隠せないエリが母を見つめる。


「その夢は一種の魔法さ。

アズキと王女の間には前にも起きたことがあった。

他人の夢と繋がるだけじゃない、夢の中で話ができるのさ。」


この答えには、エリもコルタも驚いた。

魔術の力の底知れなさを知った気がしたからだ。



「だから別にあり得ないことじゃあないのさ。」

そんな風に締め括るサラの声で、二人は現実に引き戻される。