「軍に見た目にも能力も劣った俺達は要らない。


こんなナリじゃもう家族には会いに行けないし、どこにも居場所はない。」


空を仰ぎ見て、悲しく笑った。

「『改造人間黒猫のルグィン』の噂は耳に入っているだろうし、実際会って恐れられるのが怖いんだろうな。

…泣きながら別れを惜しんで送り出してくれた家族に拒絶されるのが嫌で会えないんだろうな。」


空を仰ぐ瞳は相変わらず綺麗なのに、どこか寂しい。


「だから、幸せを願って1人逃がして貰ったお前が、眩しい。」

黒い髪の隣の少年は消え入るような声で言うと、口を閉ざした。



悩みを抱えた等身大の少年に、ぎゅ、と心臓を捕まれたように胸が痛い。


凄く唐突だった身の上話だけど、話してくれて純粋に嬉しかった。

だけど、心の傷が深いことを知ってしまった。


─幼くして親と別れた私達は、どこか似ていて、似ていない。

だから、彼の思いを知ったような口なんてきけない。


でも、どうしても何とかしたい。

彼女は立てた膝を抱き締めて口を開く。


「でも、昔に別れたあなたを気にかけるときだって、お母さんにもお父さんにも、あると思うよ…。

どんな噂がたっても、親なんだもん…。」

掠れたような、泣く前のような、悲しい声が空気に溶ける。

笑ってほしくて、自分に重ね合わせた答えを出した。



「そうだと…いいな。」

少しまだ暗いけど、確かに光の宿った目でこちらを向いてルグィンが言った。


「いつか…もう一度会いたい…。」


不器用な少年の、零れ落ちた本音は風に掻き消えても、ナナセの胸にしっかり残った。


「いつか妹さんが元気になったところ、見られたらいいね。」

どういう顔で、どうすればいいのか分からなかったナナセは、精一杯に笑う。


表情も作らずに、泣き笑いの少女を視界に映す黒猫の少年。


「…あぁ。」

数秒の間隔のあと、彼が答えた。

それを聞いて、彼女は口を開く。


「それにね、」


ナナセは寒さで冷たくなった手を、隣に置かれたルグィンのそれに重ねた。


冷たいのに、どこか暖かくて。


─重ねたのは自分なのに泣きそうになる。