「仲良かった病弱な妹はここにいてくれと、最後まで泣いていた。

俺が行くより、自分が弱っていった方がいいと言っていた。


だけど、家族が幸せになれば、病弱な妹が元気になるなら俺はよかった。

だから軍は危険だと知ってて、家を出た。

兵役を果たせば帰れると思っていたから。


…軍で戦うだけで、こんなことになるとは思っていなかったから。」


そこでルグィンは頭上の星を見上げる。


「でも、買われたのって、帰れないことを意味するんじゃ…。」


ナナセが遠慮がちに聞くと、頷いて答えた。


「そう。帰れない。

普通はこうやって自由に動くことはできないさ。

一生軍で働き、実験動物として人には言えない仕事をするはずだった。

俺が買われたのは命を踏みにじる、この実験をするため。」


そう言って、彼は自分の頭にある黒い耳を触る。


「特に能力が秀でていた十数人は、実験動物としてこうして動物の力をもらって人外の生き物にされた。

スズランも同じ。

同じような奴らがたくさん出来たんだ。」

自分の暗い過去は、話す彼にとっても辛いのだろう。

瞳を伏せて、彼女の方を見ることはないが、ぽつぽつと話を続ける。


「改造人間は、一年間うまく使われた。

ライとか言う、お前の父を殺したやつの指揮下のもとで暗殺や闇の世界の仕事をこなした。


けれど、一年後。


その生活が変わったんだ。」


聞いている彼女はごくりと唾を飲み込む。

身構える少女の隣で、冷めた瞳のなかに僅かに悲しさを映す少年は口を開く。


改造人間にする過程で、彼が改造された時は動物が必要で、体のどこかが動物化する魔術を使っていた。


けれど、一年後に開発された魔術は違ったと、黒猫は言った。


体がどこも変わらずに、動物化することなく能力を上げる魔術で。


それに昔はかけられた魔術は身体能力しか改造できなかったが、その魔術はその人自身の魔力の改造も出来るようになった。


しかもその新たな魔術は、改造の精度が抜群の魔術だったとルグィンは瞳を伏せて呟く。

「だから、劣った俺達は要らなくなった。


それまでは大事に育成されてきた俺達だったが、新たな魔術で改造された奴らが出てきたから前線を退くことになった。


それまでの仕事は奴らが引き継ぎ、俺達は捨て駒部隊に異動した。

捨て駒だ、俺と同じ改造人間の仲間も死んでいった。


最後に残ったのは、俺とスズランと、それからもう一人。


また異動になって、俺ともう一人のナコは今の特別指令課に移り、スズランは脱走して今の仕事をしてる。

俺達は追われることなく、改造人間を辞められることもなく、ここにいる。」


吐き出した白い息が空中で漂う。