空色の瞳にキスを。

「親に売られて軍に買われたって、いつか言ったことがあったよな。」


今さらけ出されている彼の黒い耳は、その証。


その耳は終わりのない魔術。



いつもに増してゆっくりと静かな声で、彼は語りだす。


「俺は山間の小さな町で生まれたんだ。

6人兄弟の俺は2番目でさ。

俺の下には病気かは分からないけど生まれつき体が弱い2つ下の妹がいてさ。」


過去の妹を見ているのだろうか、ルグィンの瞳が優しく遠くを見つめる。

冷たい風が二人の間を駆け抜ける。

風が止むと、また黒猫は口を開く。


「でも俺の家は貧しいから、大きな街の医者にかかれなくて。

父や母は働いて貰った少ない金で俺たちを食わせて、残りの少ない金で病気の妹を助けようと必死だった。

病院に行けなくて日に日に弱っていく妹を見るのは俺たち兄弟も、父や母も辛かったから。」


優しい瞳は、悲しみに染まって。


諦めたような瞳で微かに笑い、そしてまた続ける。


「そんな頃に、たまたま母さんが俺を連れて、山を下りた大きな街に出稼ぎに出たんだ。

俺たちの町の山でしか採れないココの葉は、高値で売れるから。」


ココの葉は確か内臓のための薬に必要な珍しい薬草。



金の瞳に影が差してくる。


「そうしたら薬草を売っていた母が稼いだ金をすられた。

ちょうど犯人を見ていた俺は、追いかけて捕まえた。


11の俺はその頃には足の速さは大人に負けたことなくて、だから男を得意げに捕まえたんだ。


もちろん、人がたくさんいた。


その中に軍の奴がいるなんて知らなかった。」


なんとなく、彼女は先が読めてきた。


─きっと、このあと─…


「その出稼ぎはなんとか母と俺でやり切って、帰った。

珍しい薬草だと言っても、もとの薬草が少ないからそんなに儲からなかった。


また1週間俺たちがなんとかやっていけるくらいの金。



家に帰って数日後、緑と黒の軍服を着た男が5人、俺の家にやって来た。」


話をする口を止めて、一呼吸。

不気味なほど静かになった夜の闇は、彼の話をいっそう悲しくしてしまう。


「俺の運動能力を買って、俺を軍にくれないかと願い出てきた。


母は拒否したよ、最初は。

だけど買い取り金額を見て、俺は行くと言った。


それは妹が病院にかかることのできる金額だったから。

母も俺の思いに折れてくれた。」


自分を嘲るように、困ったように、切なく笑う。


─だから、ここにいるのか。

─母と、父と、兄弟と別れて。


だけど、悲しいはず。

妹のために犠牲になるなんて。