空色の瞳にキスを。

ゆっくりと言葉を紡ぎながら、屋根に座るナナセの右隣に腰を下ろす。


隣に座る彼から、風にのってふわりと、優しい匂いが漂ってくる。

その匂いにどこか安心している自分に気づいたナナセは、隣にいる黒猫の少年の方を向けなくて、俯いてしまう。


「…ルグィン、ありがとう。」


どこから聞いていたのかは分からないけど、自分のひとりごとを聞いて励ましてくれる少年に、躊躇いなくお礼を口にする。

いつもは苦手な感謝も、素直に口をついて出てくる。

勇気を出して彼を見ると、視線が合う。


いつになく真剣な金の瞳に、気後れしつつ空色の瞳で見つめ返す。

ルグィンはナナセの瞳から目を逸らさずに、言葉を紡ぐ。

「迷うなよ、自分が決めた道だろ?

悪いことしてる訳じゃないだろ?

ナナセの思う、いい方に向かうように頑張ってるんだろ?」

真っ直ぐに自分を認めてくれる、そんな優しい声。

「…っ…うん…。」


ぶっきらぼうだけど、優しいルグィンの声に、ナナセはなぜか泣きそうになる。


「それならきっとあの人も応援してくれる。

自分の娘の幸せを願わない訳ない。」


背中を押してくれるルグィンの低い声が、途中から悲しみを帯びてくる。

その声音に、ナナセはいつかに、自分は親に売られたとルグィンが言っていたことを思い出す。


─もしかしたら、幸せを願ってもらわずに親と別れたのかも。


そう思うと、励ましてくれた彼の言葉が悲しくなって。


あたしもルグィンを励ましてあげたいのに、上手い言葉が見当たらない。



それきり二人の会話は途切れて。

夜の星が瞬く空を二人並んでただ見上げて、言葉を発することなく時を過ごす。


幸せを願ってもらっていたはずだ、なんて無責任な言葉はナナセには言えないから。


彼女はただ彼の隣にいたいと、切に願った。


―幸せを願ってる人は、ここにいるから。


―あたしがいるから。


もどかしいそんな願いを心に抱いて、ナナセは黒髪の少年の隣にただ座っていた。


手を軽く伸ばせば触れられる距離にいる彼に、ナナセは手を伸ばすことは出来なくて。

遠慮がちに置かれた数メートルのこの二人の距離に、少しだけ胸が痛む。


静かな二人の静寂を破ったのは、黒髪の少年。

「俺は…さ。」

「…うん。」

二人の間に広がった、低く静かなその声にナナセは身構えて頷いた。