空色の瞳にキスを。

アズキの家が夜の闇に消えた頃。


トーヤの両親はすでに近所にある自宅へと帰っていて、アズキの両親と今晩世話になる自分達だけになっていた。


明日が勝負だということからの緊張は張り詰めすぎてもうどこかへ行ってしまい、ナナセは今、妙に落ち着き払っていた。



冬の空気は冷たくて、服で覆われていない肌が冷気に触れて痛いのに。

黒い布に散りばめられたような星空を少女はぼんやりと見上げている。

高い場所が昔から好きだった彼女は、自分が貸してもらった部屋の窓から屋根へと降りて、冷気で冷たい屋根の上に座る。


ぼんやりと星を見上げていると、ふと昔言われた言葉が思い返される。


─昔、とうさんが言っていた。

記憶がふ、と蘇る。


─お前の目は空で、その髪は。


「あたしの銀は、星屑の…光。」

一人の人間を自然になぞらえた言葉は厚かまし過ぎるけど、嬉しい。


目の前に広がる満天の空に、手を伸ばせば、指先が闇に飲まれて消える。


手の先にあるあの星屑のどれかから、カイが見ている気がしたナナセは、ぽつんと呟く。


「ねぇとうさん。

友達を、助けにいくよ。

とうさんは、笑顔であたしを見送ってくれるよね?」


そんな場所にはいるわけないけど、あの父なら自分を見守ってくれている気がして。


だけどもちろん、答えは返って来るはずもなく彼女の耳が捉えるのは静寂と遥か遠くの何かの遠吠え。


返ってこない答えに、寂しそうに空を仰いで自嘲する。


「…返って来るわけ、ないよね…。」


まだ空を仰ぎ見ていると、彼女の視界が人影で遮られた。


「言ってくれるぜ、あの王様なら。
お前の父親だろ?」

暗闇で顔はほとんど見えないが、ナナセの視界の星が人の頭の形に遮られた。


目を凝らせば、漏れてくる人家の灯りのお陰で、微かに金の瞳が見えた。

ナナセはその人を見上げ微笑む。

「ルグィン…。」


黒猫は、自分を仰ぎ見て安心しきったように笑う少女を見て、自分も小さく柔らかく笑う。

闇を見通す彼の目は、銀髪に淡い空色を持つこの少女を鮮やかに映し出す。


「お前の父親は、優しいんだろ…?

お前に似てるんだろ?

だったら、反対なんて出来ないと思うぜ。」

ぽつりぽつりと呟く彼の低い声が、夜の闇へと溶けていく。