空色の瞳にキスを。

「俺は、こんな馬鹿げた人間を増やすことには反対なんでな。

軍にはいるが、生きていくのに便利だからなだけ。

忠誠心なんてないぜ。」

どこか冷めた、でもどこか傷付いた少年の瞳。

「ルグィン…。」


隣で心配そうな声を発するのは出会って長くて1ヶ月強ですらしかないであろう、彼女。


その瞳には今4人の瞳に映るような彼への恐れなんか、無くて。


「いいの…?」


彼を信じきった、淡い青の瞳。


「いいよ。
別に、昔なんか変わらないから。」

揺れる金の瞳を、ナナセの空色の瞳が映す。

唇を噛み、苦しそうな目で黒猫を見上げる。


「でも…。」

引き下がろうとしないナナセに、黒猫の瞳が優しく笑んだ。


「ありがとな。」


ぽん、と男には白いが大きな手が銀の頭に乗る。


「…。」

そのルグィンの言葉に、ナナセはまだ泣きそうな瞳はしているが、引き下がる気になったらしい。


ナナセは言葉を続けることなく下を向いた。

目の前の2人を、リョウオウの5人は信じられないものを見たような目で見ていた。


黒猫と呼ばれるルグィンは、ここに来てから冷めた瞳しか5人には見えなかった。

だけどこの少女の隣で、柔らかく彼は笑うところを見てしまった。

彼も彼女に惹かれた一員なんだとエリは思う。


それに、隣にいるアズキの友達が特に驚きだった。


リョウオウにいた頃のナナセはもっと大人びて彼らの目に映っていた。

もっと心配するのなら気付かないように気遣う、感情を表に表しすぎない少女だった。

1ヶ月で、こんなに変わるものなのかと、不思議に思った。


それだけ信頼できる人なんだと、娘のように嬉しく思った。



エリが自分の世界に飛んで、くすりと笑っていると、真剣な瞳をしたナナセがエリを射るように見た。


「アズキとトーヤを探しに行きたいの。

でも、行き先を知らないよね?」

「ええ、悪いけど…。」

「そう…。」

「でも、魔力を開発する場所だろ?

俺が昔いた場所と変わらないんじゃないか?」


「町の名は…?」


「メノウ…。」

リョウオウはルイ国北部の小さな街。

軍の中枢要塞都市メノウはルイ国南部の大きな都市。



「俺らなら、明日の朝に行けば夜にメノウに着く。
助けるのは夜の方がいいよな?

俺たち二人なら目が見える。
俺は黒猫、お前は魔術師だ。」

まっすぐな金と空の瞳が交わる。

「うん。
行こう、明日の夜、メノウに。」


ナナセの静かで強い声に、ルグィンと二人で顔を見合わせて強気に笑う。