空色の瞳にキスを。

「黒猫の…ルグィン…?」

トーヤの父、カルヤが呟く。

名を聞いたことがある、とでも言うように口の中で反芻する。


「名前なんかいちいち気にしなくてもいいのに…。」

小声で呟いたルグィンは居心地悪そうに頭に手をやる。


その姿を見ていたカルヤは、ふと少年の頭に目がいく。


─どこかで聞いたことがあるなにか引っ掛かるその名、異様に大きな帽子。


「ルグィン…?」

カルヤは、まだ思い出せずもう一度呟く。


─彼の被っている帽子のてっぺんの、不自然な二つの膨らみ。


「ルグィ…」

彼の隣に立つ銀の少女が彼の名を呼ぶ。

ナナセが焦っているようにカルヤには見えた。


カルヤは彼女の呼んだ少年の名をどこで聞いたのか思い出そうと必死になる。

他の三人も、何かが思い出せないとでもいうような顔で悩んでいる。


彼女に気遣われた彼は、目で合図をして少女を落ち着かせる。


「俺は。」

口を開いた少年の隣で揺れる不安が滲み出た、王女の空色の瞳。


開いた口をそのままに一瞬だけ固まった黒髪の少年は、もう一度深く息を吸い込む。


今から発せられる言葉にこの部屋の全員が耳を傾けた。


「俺は、ルイ国軍国内警備部特別指令課…シュン・ルグィン…。」

彼の薄い唇が低い音を紡ぎだす。


「通り名は…『黒猫』」


そう言うと自らの手で帽子をずらして、彼が見せたくない頭部をさらけ出す。



髪と同じ色をした、あるべきではないもの。



─名の由来の黒い猫の耳。


サラとナナセとルグィン以外の4人が絶句する。


驚いては、怖がっては失礼だと思っていても、彼の姿は背筋が凍るものがある。

魔術で作られた彼の耳は、どことなく、でも確かに人間には不釣り合いで。


それに、『軍』の響きが親たちに不安の種を植え付ける。

首狩りのトップは、軍の機関。

子供をさらった機関なのだ。


かける言葉に悩む親たちを見て、ルグィンは話し出す。


「俺は、魔術で改造されたただの人間。

軍の端くれだが、あいつらの…首狩りの味方はしないから気にしなくていい。」


親たちの目に安堵が映る。