空色の瞳にキスを。

「ナナセちゃん。」

彼女の背中に声が掛かる。

「…はい。」


エリがナナセに笑う。

「あなたと知り合えたこと、アズキはきっと後悔してないよ?

ただ、自分のためにあなたが危険に晒されると、泣いてたの。」


その笑顔は、悲しくて、だけどどこか温かくて。



―そうだ、嘆いちゃ駄目だ。

―大好きな二人のために、前を向かなきゃ。

ナナセはぎゅ、と唇を引き結んで、目にたまった涙を払った。


そんなナナセの振舞いを見て、サラは話を続ける。


「それから、アズキの魔力の大きさに気づいた首狩りに二人ともさらわれた、という訳じゃ。」


サラはまた説明を続ける。


「トーヤまで連れ去ったのは、あいつもあなたの魔力の影響を、少なからず受けておるからじゃ。

お前さんの魔力は大きすぎて、他に影響を与えやすい。

…だから、今まで必要無くかけなかったんだろう?


軍のある街へ連れ帰り、実験台としてきっと二人の眠っている魔力を解放したのだろう。


アズキもトーヤも王女のあなたの名前をちらつかせれば敵の命令にも従うはず。

それにつけこんでいいように操るつもりだろう。」

そして、サラは溜め息をつきながら締めくくる。

「魔力で人を強くするのは子供の方が身に馴染むのさ。

嫌になるねぇ。

人が人を開発するのは。」

言い終えたサラは、瞳を閉じて難しい顔をしていた。


その沈黙に、誰もなにも言えなくなる。



数十秒の静寂を、コルタが破る。

「…助けてくれ。」

サラの方を向いていたナナセは、声が聞こえた方を振り返る。

躊躇いなく10歳以上離れた少女に頭を下げる。


それをなにも言わず見ていたスカイブルーの瞳が笑んだ。


「ええ、もちろん。

アズキとトーヤの二人とも、必ず助け出します。」

「頼んだぞ。」

にこりと笑い、コルタを見た空色の瞳の中に、強い光がまた宿る。

サラがナナセの隣にいたルグィンに視線を移す。

「お前さんもか?

黒猫の…ルグィン。

…名前、違ってはいないだろう?」

呼ばれた彼は、即答する。


「もちろん。

こいつが大事だと思う人だ、助けるなら手伝わせてもらう。」


金の瞳が、優しい光を帯びた。