空色の瞳にキスを。

「あぁ。
もう、しないさ…。

いや、辛くて出来ない…かな。」

悲しそうに笑みを浮かべるコルタの瞳に影が差す。


「…でないと、あたし許さない。」

彼女の言葉はきつくても、表情はどこか優しくて晴れやかだった。

コルタと彼を言葉もなく見つめる銀の少女をただ見守っていたエリたちは、沈黙から我に返る。



「…こんな話を軽く片付けるのはいけないことなんだけど、さ?」


コルタの後ろからエリが声を発した。


「…はい。」

ナナセが静かに答えた。


「どっちも悪かったじゃない?
私達も、貴方も。」

ゆらりと、エリの瞳が悲しみに揺れる。


銀髪の少女の瞳もゆっくりと伏せられ、掠れた声で返事をする。


「…はい。」


「だから、なかったことにはできないけど、前のままで接してよ。」

あの頃ままで、と小さく続けてエリは呟く。

その答えに即座に顔をあげて銀の少女は彼女の顔を穴が開く程に見詰める。


「私は前みたいに仲良くしたいな、ハルカちゃん…。」

そこで言葉を切って首を緩く振り、また口を開く。




「…ううん、ナナセちゃん…。」


名の余韻がエリの唇に、6人がいる小さな部屋に柔らかく響く。

柔らかく呼ばれた自分の名に、王女はつん、と目の奥が痛くなる。

エリの言葉に答えようとした自分の声は、思ったよりも泣きそうに、震えていて。


空を思わせる瞳は、潤んで。


「…いいんですか?

あたし、国に追われた王女ですよ?
あたしといることがばれたら危ないんですよ?」


信じてくれることへの警告。

もうこれ以上深入りは危ないと言っても、少女の瞳は潤み涙は目にたまっていて。

複雑な表情でエリを見上げるその少女を、彼女は堪らず抱き締めた。


「だって、あなた優しいもの…。

逃げるならとことん逃げればいいのに…。

最低限のアズキの命は嘘をついてまで助けてくれたし、こうやって苦しんでも帰ってきてくれたんだもの…。

そうやって優しいから、憎みきれないのよ…。」


柔らかく抱き締められて、彼女の娘に良く似た匂いがナナセの鼻につく。

ナナセの頬から伝うこらえきれなかった涙がエリのシャツの肩布のに染み込んでいく。


「コルタさんも、サヨさんも、カルヤさんも…皆、いいの?

あたしと関われば、もっと酷いことになるかもしれないのに?」

嗚咽混じりの涙声が、小さな部屋に響く。

静かな部屋に広がった小さな声に、次々に声が返ってくる。


「構わない。」
「別に。」
「うん、いいわ。」

また、彼女の涙腺が緩む。


「ごめんなさ…。」

無意識に謝るナナセに、またエリが口を開く。


「ごめんじゃないの…ありがとう、でしょう?」


数瞬のあと、ゆっくりとエリと顔を見合わせたナナセは、赤い目のままで小さく笑った。