空色の瞳にキスを。

「ありがとう…。」


ハルカと名乗ってここにいたナナセは、やっと得られた小さな信頼に小さく笑った。

この街を出ていったあの頃の切なく儚いあの雰囲気が、少しだけ柔らかくて。


飛び出した先で強くなったんだと、強くなって帰ってきてくれたのだとエリは思った。



娘が怪我をして飛び出して行かれた日、娘が囚われた日。

娘のように王女様を信じられなかった自分を悔いて、悔いて。

もしも帰ってきてくれたら、と思わない日はなかった。


彼女自身の立場と私達との別れ方は複雑なのはわかっているけれど、娘達を助けてほしい。

あの子達がいなければ、何のために生きているのか分からない。

それくらいに、大事な存在。


信じてあげられなかった娘達と、信じなかった私達と、それから目の前にいる偽りの姿でしか動けない彼女のために。


まずは、今度こそ話を聞いてあげたい。

彼女を信じてあげたい。


心の中を整理して、エリは玄関口に突っ立ったままの二人に歩み寄る。

「悪いけど、あがって。

ばれるとダメでしょ?」

エリはそう言ってナナセとルグィンの背中をポン、と押す。

そう言われてやっと部屋の中へ6人で進む。


家の中はあの頃と変わらない懐かしい匂いがした。

けれど、いつもナナセを出迎えてくれた二人は今はいない。


ナナセはつん、と目が痛くなるのを感じた。


―あたしの世界を広くした、大事な二人は今ここにはいないんだ…。