―違う。何もかもがあの少女とは違うのに。

―自分がすがった少女に何かが、似ている。


アズキの父親はぶんぶんと首を振ってそんな訳がないと、立ち直る。


玄関に続く廊下が軋む音に振り返れば、子を拐われた親達3人がコルタの怒鳴り声に様子を見に出てきていた。

「…!」

その3人も、来客の戦闘用の衣装を見て、立ち退きを請う言葉を語る。

「出ていって…!」
「お願いだ…、帰ってくれ…!」
「お願いですから…。」



口々に言う3人を背に来客と向き合うコルタの茶色の瞳が後ろからの声なんか聞いていないように少女に釘付けになり、瞳に迷いが浮かんだのを見て、少年は呟く。


「俺はともかく、こいつは軍の関係じゃないぜ。」

落ち着いた、冷たいのにどこか温かいそんな声がコルタの耳に響く。


「ハルカ、って言ったら分かりますか?」

コルタがすがれなかった、少女の名。

彼女の薄い唇の動きに、親友の両親4人共が凍りつく。

「本当に…?」

呆然として答えるエリに、口角を引き上げてにっ、と笑う少女。

「うん、本当。」

「じゃあ、ハルカとあの子達が出会ったのはいつだった?」


トーヤの母、サヨが発したこの言葉は、合言葉。


ハルカと名乗ったあの王女と、アズキとトーヤと、あとから聞いた親たちしか知らない、出会い。


「…あれは。」

少女が呟いて、過去を思う遠い目をする。

「秋の深まり始めた季節。
満天の星が見える夜。
教会の時計塔の上に2人で来てくれたわ。」

黒の瞳が、ほんの少し揺らめいて微かな青が見え隠れする。


その確かな少女の答えを、息をつめて聞いていたサヨが伏せた顔を上げて黒の瞳をまっすぐに見詰める。


「…分かったわ。

あなたをハルカと信じるわ。

あの子…ううん、あなたをこの間は信じられなかったからね。」

少し危ない橋を渡っているのかも、と小さく呟いたサヨの声は、耳のいい少年にだけ聞こえた。

信じると言ったそのサヨの言葉に誰も反論はしない。

むしろ誰もが望んだこと。



迷いは微かに見え隠れしていても。

ハルカが飛び出したあの日の疑いと拒否がこもった目とは違う目が8つ。