口を開いて真っ直ぐに彼女を見詰めたと思ったのは、一瞬。


だん、と駆け出したトキワがスズランに斬りかかる。

一瞬の後には刀を振り切っていた。


「あっ…!」


獅子の少女は避けるまもなく、目の前に現れたトキワに目の前を紅く染められる。

戦い慣れた体が反射的に動いて辛うじて頭を割られることは避けた。

けれど、避けきれなくて左肩から右腰までざっくりと斬られた。


ぱたぱた、と軽い音がして足元に血が散る。


夜目が利くこの瞳に頼っても、彼は全く見えなかった。

それくらいの、一閃。

それくらいの、一撃。



─立とうと思うのに、立てない。

─真っ直ぐに立って反撃したいのに、視界が歪む。

獅子の少女は抵抗できずに床に崩れ落ちる。

床に倒れた彼女にトキワは近寄り栗色の頭を固いブーツの爪先で小突く。

「とどめはささないぜ。
ささない方が闇の商人の俺たちにとっちゃ屈辱だからさ。」


はっ、と馬鹿にした笑い声が聞こえた。

─どうしても私が二人を護りたいのに、護れない。

─誇りなんか要らないから、とどめはささないで。

─どうにか生き抜きたいから。

朦朧とした彼女の意識の中でその想いが閃いて、弾けた。

─何とかしたいけど、それまで私の命は持つかな。

自分の命の残量が、やけに今は生々しく感じられる。


「ま、この傷だ、ささなくてもすぐに死ねるよ。」

そんな声を聞いたのが、最後だった。


ぶつり、と彼女の意識は闇に落ちた。