ルグィンを見つけるとひとつ声を漏らして駆け出したサシガネ。

それをスズランは追おうとはせず、こちらへと刀を構えたままのトキワに銃口を向ける。


カチャン、と金属音がして彼女の魔装銃の充填が完了する。


銃越しの獅子の少女をまっすぐに捉えるトキワと、落ち着いた瞳で彼を見据えたスズラン。

奥の部屋へと続く扉を背にして、彼女はゆっくりと口を開く。


「貴方に…ナナセは渡さない。」


冷酷な、異形の瞳がトキワを射抜く。

しかし、トキワは怯えることなく獅子の彼女を言葉なく見つめ返す。

ルグィンとサシガネが戦う音が遠くで聞こえる。


耳鳴りがしそうなくらいの、苦しいほどの二人の間だけの静寂。


そうして二人は構えを崩さずにお互いに出方を窺う。



先に動いたのは、黒髪が闇に溶けたような、そんな狩人。

床を蹴り、こちらに駆けてくる。

板張りの床に敷かれた絨毯が、彼の靴でふわりと埃を舞わせる。


「それは、どうだろうね。」

数秒前の少女の言葉に答えるようにトキワが呟いた。

長い髪をなびかせた狩人は、刀を振り上げて彼女を打とうとスズランへ迫ってくる。


「させないわ!」

決意を込めた獅子の少女の強い声が、4人のいるこの部屋にやけに響く。

目の前でトキワが振り上げた刀を彼女は銃の引き金を引きながら横っ飛びに刀をかわす。

なびいた長い栗色の髪が刀の餌食になって、はらりと宙を舞う。

トキワの攻撃がさっきまでのようにこちらを傷付けず牽制するものではなく、対象を傷付けて、殺すものへと変わる。



「その扉の奥にいるんだろう?

…我らの国の王女様。」

刀を振り上げながら、トキワが馬鹿にしたように鼻で笑った。