ルグィンはその剣をひらりとかわして、後ろへ飛んで距離を置く。

常人にはほとんどまわりが見えない暗闇で、ルグィンの目ははっきりと世界を映す。

サシガネが掠りもしなかった剣を構え直すところも、はっきりと見える。


─昔から嫌っていたこの力も、今なら役に立つかもしれない。


背筋をピンと伸ばしてまっすぐに狩人を見つめる。

サシガネは音から感覚で相手の行動を拾う。

サシガネは暗闇の中で一際正面で光る二つの光を捉える。


闇に映える金の瞳。

その瞳が細まって、黒猫は闇に言葉を落とす。

「俺は殺されたり、しねえよ。」

その声は戦いに慣れた、落ち着いた響き。

─必要な音しか、聞こえない。

自分の背中では二人が戦っているはずなのに、その音がどこか遠いとサシガネは感じる。


「それは、あの王女の為…か。」


戦いに集中し始めた自分の興奮を押し隠して、ルグィンの声に怯まないで鼻で笑って返すサシガネも闇に慣れた狩人。


「そうだ。」

真っ直ぐな意思と共に戦いの中にいる、異形の黒猫。

その彼の答えを聞いて、サシガネは腰に携えた剣の柄に手をかける。

カチャン、と音がしてルグィンの瞳が鋭くなる。


サシガネもルグィンも、近接攻撃を得意としている。

力は、ほとんど同じ。



「さぁ、それはどうだろう?」

笑みを形作るサシガネの唇が、動いた。


二人のまわりの音が消え去る。

彼らは距離を置いたまま、構えを崩さない。

同じ部屋で戦っているスズランとトキワの戦う音が、やけに遠くから響く。

そして唐突に、二人の体が動き出す。