「ずっと隠してきた。
この目はルイの石を受け継ぐと強い魔力のせいだ。

ナナセも受け継ぐと瞳に魔法陣が出てしまうだろう。」

カイはそう言い、瞳を伏せた。ゆっくりと父は娘と向かい合う。

「人の運命を変える力があるんだ。
──ナナセ、受け取りなさい。

……今渡さないと、きっともう渡せない。」

最後の父の台詞に、引っ掛かりを覚えて。


「……え、どういう意味?」

「──内緒。」

父はそう言って悪戯っぽく、くすりと笑った。

カイが差し出した手には、小さな銀色の耳飾りがあった。

それは相当昔のものなのだろう。
きれいに磨かれてはいるが、ところどころに古い文字が使われている。

ナナセはそれを受け取り、耳にはめた。

かちり、という音がしてナナセの耳に合わせて小さくなった。

目を閉じると、ルイの石から魔力が流れこんでくのが分かった。

ナナセの大きな魔力と混ざりあって、彼女の魔は更に大きくなる。

目を開けた娘のスカイブルーの瞳にはっきりと映った濃い紺色の魔法陣を父は悲しく笑った。


小さな体に見合わない大きな魔力にくらりとした。それに加えて、少しの初代のモノであろう記憶まで流れ込んできた。

祖父──ルイのものであろう視界で、戦乱が起こった。
祖父の知り合いであろう人が次々に消えていく。

命を捨てて平和を望んだ彼の人生が断片が流れ込むように次々に見えた。

一気に流れ込んだ祖父の記憶に孫は置いていかれて、けれども祖父が平和を欲しがった心だけは漠然と分かった気になった。


「俺は初代ルイ・ジェイムの子供だけど、あまり魔力を持っていなかったし、あまり上手ではないからね。
だからルイの石に頼っても瞳を普通の色に見せる魔法が使えなかったんだ。
ナナセが耳飾りを持つべき人でも、隠さないといけないときが来るかもしれないから、覚えておきなさい。

──姿かたちを違った見せ方をする魔法で、瞳も隠せるから。」


父はナナセと会うのが最後とでもいうように、たくさんの知識を教える。

嬉しいけど、何か悲しかった。

しっかりと覚えないといけない気がして、ナナセは記憶に刻み付ける。


「ナナセ。重い運命を背負わせてしまって、ごめんな……」

それから、父はナナセの頭にぽんっと手をのせて、長い髪をくしゃくしゃと乱す。

ナナセはなんともいえない雰囲気に何も言えずにされるがまま。