｢あんずが泣いてないのに、俺が泣きそう。

マリンに叱られちゃうな。

こら、陽平、しっかりあんずを守れよ！って」

陽ちゃんは優しく微笑む。

それは少し、マリンの優しさに似てる。

｢私も、いっぱいいっぱい泣いたんだよ｣

心なしか少し潤んだ目で、陽ちゃんはじっと私を見る。

｢でも、マリンが天国へ行く前に、逢いに来てくれたのよ。

あんず、大好きだよって。伝えに来てくれたの」

いたずらな笑顔を私は陽ちゃんに向ける。

マリンが大好きだって言ってくれた、私の笑顔。

いつも笑っていたいな。

｢ふふ、信じられない？でも、ほんとよ｣

陽ちゃんはふわっと笑った。

｢俺、信じる」

目を細めて、大事なものを見る陽ちゃんの癖。
今は、あの陶器の入れ物を優しい目で見つめてる。

｢だって、その証拠に泣き虫のあんずが泣いてないもんな｣