運命みたいに恋してる。

通話を終えてスマホをポケットに戻して、またグスグス鼻をすすって泣きながら、あたしは夕暮れの街角に立ち尽くしていた。


すでに日はだいぶ傾いていて、ついさっきまでオレンジ色に染まっていた空は、もう藍色。


目の前を通り過ぎる人たちが、チラチラと遠慮がちにこっちを眺めて行くけれど、人目なんか気にしてられない。


そんなことより、今は自分の感情に向き合うので精いっぱいなんだもん。


「お……お前、なぁ……」


聞き覚えのある声がして、あたしは頬を手でこすりながら顔を上げた。


自転車にまたがって肩で息をしている大地が、目の前にいる。


学校のジャージ姿ってことは、部活帰りだろうか?


怒っているのか、それとも心配しているのか、大地は強い口調で言った。


「お前さ、何度も言ったけど、もう少し自分がかわいいって自覚を持て! こんな場所でひとりで泣くとか、無用心すぎるだろ!」


「大地、部活は?」


「女の子が泣いているのに、のんきにボール磨きなんかしてられるか。雑用ぜんぶバックレて飛んで来たわ」


「ごめんなさい……」


「いいよ。明日になったら、仲間全員に焼きそばパンおごって許してもらう」


「ぐすっ、ぐす……。ごめん。あたしも半額出すから」


「いいって。それより泣くなよ。俺が泣かしてるって誤解されるだろ?」


「だって、だって、大地だったらわかってくれるでしょ? この気持ち」


そう言って、またベソベソ泣き始めたあたしの様子を黙って見ていた大地が、「あ~」と頭を掻いた。


そして自転車から降りて、あたしに向かってクイクイッと右手の人差し指を動かす。


「ついて来い」


自転車を押しながら歩いていく大地の背中が、ゆっくりと遠ざかっていく。


ほんのわずかなその距離が、なんだかすごく心細くてたまらない。


置いていかれたくなくて、あたしは雛鳥みたいに急いで大地の後を追いかけた。