頭の中は未使用の画用紙みたいに真っ白で、何も考えられない。


もう、呼吸するだけで精いっぱい。とにかく一刻も早く、一歩でも遠く、ここから遠ざかりたい!


充電の切れかけたロボットみたいに、両足をギクシャク動かしながら、ただもうメチャクチャに歩いた。


体が揺れるたびに、涙がすごい勢いでボロボロと零れ落ちていく。


すれ違う人たちみんなが、すごく不審そうにあたしを見るけど、そんなの気にする余裕もない。


子どもみたいにしゃくりあげながら、目的地も考えずにひたすら突進していたら、ポケットの中のスマホが振動した。


それが、まるでなにかの合図のように感じられて、あたしはスマホを取り出して電話に出た。


「は、い」

『よお、七海か? 俺だよ。大地だ』

「…………」

『おい、どうした? 聞こえてるのか?』


柿崎大地。


この状態のあたしに電話してきた相手が、よりにもよってこの男だなんて。


あぁ、もうだめ。我慢できない。


「う……うえぇ……うわあぁん!」


『お、おい!? どうしたんだよ⁉︎』


慌てふためく大地の声を聞きながら、あたしはスマホを握りしめ、大声でわんわん泣いてしまった。


「また迷子になっちゃったよおぉ……」


『はあ⁉︎ まいごぉ⁉︎』


今の心理的状態を迷子と比喩したのだけれど、実は、地理的に迷子になっているのも本当だった。


「ここ、いったいどこなのよおぉ……」


『そんなん俺だって知らねえよ! 目印になる建物とかは⁉︎』


「ぐすっ。なんか、向こうに◯◯耳鼻科って病院の看板が見える……」


『よし、わかった! すぐ行くから待ってろ! そっから動くなよ!?』