運命みたいに恋してる。

両手で頬を挟んで喜ぶあたしの横で、花梨ちゃんがガックリと前のめりになる。


「あ~、また始まっちゃったよ! 七海ちゃんの『運命の王子様』が!」


悲壮感の漂う声で嘆く花梨ちゃんに、あたしは唇を尖らせた。


「ちょっとぉ、そんな心底嫌そうな顔しないでよ」


「だって心底嫌だもん」


「ひど!」


「ひどくない。あたしは十年間も同じことを聞かされ続けてるんだからね?」


「だってあたしと王子様の出会いは、もう十年前にさかのぼるんだもん。十年分の熱く切ない想いがあるんだよ」


「その熱く切ない想いは聞き飽きた。しかも入試の直前だしメンタルに響く」


「どっちにしろあたしは話すんだから、聞くことになるよ?」


「あたしに拒否権はないのかー⁉︎」


花梨ちゃんが天を仰いで叫んだ。


でも受験のときこそ普段通りに過ごすのって大事じゃない?


それに、恋愛話はひとりで胸にしまっているより、お互いに分かち合って盛り上がらなきゃ!


それが女子同士のルールとマナーってもんでしょ?


ということで、入試本番の景気づけも兼ね
て、あたしの初恋物語をこれからめいっぱい語るよ!


「昔むかし、今から十年前の夏の日のこと。川に落ちて溺れかけたあたしを助けてくれた、それはそれは素敵な王子様がいました」


あたしはうっとりと目を閉じて、もう何べん話したかわからない、あの日の出会いをまた花梨ちゃんに話し始めた。