でも、今は喜べない。そのことがすごく、つらい……。


「ごめんね、七海。お付き合いしてる人がいるなんて言ってなかったから、驚いたでしょ?」


さっきからずっと硬い表情で黙り込んでいるあたしに、お姉ちゃんが済まなそうに謝ってきた。


「そのうちに、ちゃんと言おうとは思っていたんだけど機会がなくて」


「え? 一海、僕のことを七海ちゃんに話していなかったの?」


柿崎さんがパチパチと目を瞬かせ、あたしとお姉ちゃんを交互に見る。


「でも、七海ちゃんは僕を知っていたよ?」


「え? でもあたしは、七海になにも言っていないわよ?」


「七海ちゃん、僕のことを知ってるって言ったよね?」


ふたりに不思議そうに見つめられて、あたしは青ざめた。


「あ……。そ、それは」


どうしよう。どう言えばいいんだろう。


あの十年前の出来事を説明するべきだろうか。


『十年前に、ドブに落ちてた女の子のことを覚えていませんか?』って。