「あ、はい。オリジナルブレンドですね? 七海ちゃんはなににするの?」


花梨ちゃんを横目で睨んでいたあたしは、柿崎さんに聞かれてとっさに笑顔を作った。


えーと、えーと。ここは柑橘系の爽やかな少女を演出するために……。


「レモンティーをアイスで」


「了解。ちょっと待っててね」


柿崎さんの姿が扉の奥に消えたのを確認して、あたしは勢い込んで花梨ちゃんに話しかけた。


「花梨……!」


「ストップ!」


開いた瞬間の口を、花梨ちゃんの右手のひらにビタッと覆われた。


あたしは目をパチクリさせて、塞がれた口から「ふぼぁ?」っと声を出す。


「七海ちゃんがこれ以上テンション上げたら、付き合いきれない。だから落ち着いて。いいね?」


「ふぼ」


「興奮しないで話せるね?」


「ふぼ、ふぼ」


「よぉーし。話してもよし」


やっと手のひらを口から離された。ぷはぁ……。


大きく深呼吸しているあたしに、花梨ちゃんが疑り深そうな顔で話しかけてくる。


「ねえ、本当にあの人が王子様本人で間違いないわけ?」


「うん! 顔がそっくりだし、あんなイケメンはそうそういないし、なによりもあたしの名前を呼んだんだもん!」


「なんであの人が七海ちゃんの名前を知ってるの? ドブから救出されたときに自己紹介でもしたわけ?」


「そんなわけないじゃん。あのときパニック状態だったお母さんが、あたしの名前を連発して叫んでたんだよ」


だいぶヒステリックに連呼してたから、嫌でも耳に残ったんだろう。


おかげで名前を覚えてもらえてよかったー!