そんな会話を交わしながらのんびり歩いていたあたしの足が、ふと止まった。


目の前に流れるこの川こそが、思い出のドブ川だ。


もう今ではすっかり整備されて透明な水が勢いよく流れ、あの頃のドブッとした面影はまったくない。


時の流れを感じるなあ……。


立ち止まってしみじみと川の流れを眺めていると、大地が不思議そうに聞いてきた。


「おい、なに見惚れてんだよ? まさかここで泳ぐつもりか?」


「泳がないよ。どんな趣味の持ち主よ。あたしは」


そういえば、大地にはまだなにも話していなかったっけ。


あたしの人生において、最も重大で衝撃的な、あの出来事を。


「実はあたしね、十年前にここで柿崎さんに会ってるんだよ」


「はあ? 兄貴に?」


「うん。あたしがこの川に落っこちたときに、助けてもらったんだよ」


「……え?」


ポカンとしてる大地に、あたしは苦笑いした。


たしかにすごい偶然だもんね。あ、それとも呆れてるのかな?


そうよ。ドブに落っこちるドン臭い子どもなんて、あたしくらいのもんですよ。


「でも、それも今では様々な紆余曲折を経て、ヘドロすら美しい思い出の……」


「お前か?」


「え?」


「あれ、お前なのか?」


「あれって、なにが?」


大地は目を丸くしながら、自分の人差し指を、あたしの鼻先にビシッと向けて叫んだ。


「あのとき俺が助けた女の子って、お前だったのか!?」


今度はあたしが目を丸くする番だった。


お、俺が助けたって、なに?