「それでは、これで失礼します」


柿崎さんの声が聞こえて、思考の底に沈んでいたあたしは我に返った。


奥の部屋から出てきたお姉ちゃんと柿崎さんが、白髪頭のおまわりさんに揃って頭を下げている。


「七海、もう大丈夫。帰れるわよ」


振り向いたお姉ちゃんの優しい笑顔にあたしは息をのみ、反射的に下を向いてしまった。


心臓がズキンズキン痛んで、すごく苦しい。


お姉ちゃんに申し訳なくて、自分が恥ずかしくて、とてもお姉ちゃんと顔なんて合わせられない。


そうやって下を向いたままのあたしを、周囲がこぞって慰め始めた。


「七海ちゃん。もう心配ないよ。僕のカフェのために無理をさせてしまって、ごめんね?」


「七海は一生懸命な性格だから、ちょっと行きすぎただけだよな?」


「そうよね。七海はお店のために、よかれと思ってやってくれたんだもの」


お姉ちゃんの言葉に、あたしの心がビクンと震えた。


お店のために?


……嘘っぱちだ。


お姉ちゃんのために?


……嘘っぱちだ。


「なんたって七海は、あたしの自慢の優しい妹なんだから!」


お姉ちゃんのその言葉に、みんな揃って笑顔でうなづく。


あたしはとても堪えきれずに、涙をボロボロこぼした。